若井玲子: ランウェイから現実の世界へ。写真家の変革への決意

若井玲子さんのファッションと広告写真の世界での卓越したキャリアは、彼女を誰もが夢にみる素晴らしい舞台であるロンドンファッションウィークへと導いた。
しかし、その経験は彼女にとってプロ写真家としての1つの到達点になっただけでなく、彼女の人生観を根本的に変えることとなった。

今日、若井玲子さんのレンズは、世の中の美しいものに向けられているだけでなく、現在進行しているこの世の様々な変化そのものに向けられている。
彼女の進化の過程や様々な活動状況について深く掘り下げているこのインタビューを読めば、壊れた何かを直すことが、壊れた心を癒すことにつながる、そんなことが発見できるはずだ。


ー  最初に、最近ハマっていることを教えてください!

最近はまっている事は、多摩川の河川敷で指輪物語とフェミニズムの本を読む事です 笑

ー  若井さんが写真に興味を持つようになったキッカケは何でしたか?また、キャリアが始まる前の夢、もしくは考えていた将来像について教えていただけますか?

元々美術や図工が得意で写真にも興味はあったのですが、美術大学に入学し、暗室の授業を受けた事がキッカケかも知れません。何も見えない、誰もいない暗い空間で写真を黙々とプリントする作業に、心が満たされる感じがしました。キャリアを始める前の将来像は、なんか漠然と、凄いカメラマンになりたいと思っていました 笑


ー  若井さんはファッションと広告を中心に活躍されていますが、最近ではアクティビズムのプロジェクトにもご参加されているようですね。その方向に進むキッカケは何でしたか?

イギリス留学が大きかったと思います。フォトグラファーとして独立して3、4年した頃、イギリスで2年間の滞在が決まりました。目的は英語の上達と、もっとファッション写真を極めたいと思い、住む場所はファッションウィークのあるロンドンを選びました。

心待ちにしていた初めてのファッションウィークでは雑誌から依頼され、会場に来るオシャレな人のスナップの撮影をしたのですが、そこで私を待ち受けていたのは、動物愛護団体によるファーへの激しい抗議デモでした。日本でデモはそこまで盛んではないので、すごく驚いたのと、私の愛しているファッションは動物を犠牲にしているという一面も知り、金槌で頭を殴られたような衝撃でした。

また日本帰国直前のファッションウィークでは、これが最後だからと、ロンドンだけでなく、ミラノとパリまで遠征してバックステージの撮影をしたのですが、その際ロンドンとミラノでイタリア人の年配の男性カメラマンから、撮影を妨害されたり、怒鳴られたりするという経験をしました。
これは私が初めて受けたあからさまな人種差別だったかも知れないです。そこでファッションの世界は未だに白人至上主義、そして男性中心主義である事を知りました。(だからと言って白人の方も男性の方全体を責めるつもりはありません。怒鳴ってきたイタリア人のおじさんから私をかばってくれたのは、若い白人の男性モデルでした。彼は私のヒーローで、今でも忘れらません。彼にすごく感謝していますT_T)

このような経験から、差別や人権などに興味を持つようになりました。あと帰国してからのイギリスと日本のギャップもすごかったです笑

ー  アクティビズムのプロジェクトにおいて、ファッションや広告と比べて創造的な観点でどのように異なると感じていますか?

ファッションや広告の場合は、クライアントさんがいるので要望に答えないといけなかったり、ディレクターさんがいる場合は仕事を頼まれた時点でもう撮りたい絵が決まっていたりします。あとファッションの場合はそもそも服がないと撮影出来ないので、ファッションストーリーを作るにしろ「物を売ること」、コマーシャルという観点が強いと思います。

アクティビズムのプロジェクトの場合はクライアントさんがいません。なのでなんでも自分の自由に出来るし、社会貢献という意味合いが強いですね。今フェミニズムカレンダーを作成中なのですが、その売り上げの一部は女性の国会議員を増やす活動をしている、FIFTYS PROJECTという団体に寄付する予定です。


ー  若井さんの目標や夢を達成するためのプロセスは具体的には何でしょうか?

私のここ最近の夢は男女平等と戦争が無くなる事なので、私が生きている間に達成するのは難しいと思いますし、そんな世界来るのか?という感じもしますが、私はコマーシャルフォトグラファーなので、広告業界で培ったカッコよく物事を見せる、広げるというノウハウや自分の能力を、フェミニズムや反戦を訴える活動に使いたいと思いました。具体的には先ほどお話ししたフェミニズムカレンダーやステッカー、Tシャツなどの、グッズ作成ですね。

特に日本ではフェミニスト=ヤバイ怒った女というイメージがあると思うので、フェミニストってかっこいい!って思ってもらえるようなイメージを日本社会に刷り込んで行きたい思っています笑。SDGsという言葉も思ったよりも早く日本で主流になってきたので、まだ主流では無いフェミニズムや投票に行く事、政治に参加する事、デモに行く事、反戦を訴えるアクティビズムも、やらない方がカッコ悪い。という時代が意外に早く来るのではと思っています。


ー 今までのキャリアで一番苦労した時期はいつでしたか。そしてそれをどうやって乗り越えましたか?

一番苦労したのはアシスタント時代でしょうか。その時期の写真業界はまだスマホやSNSがあるかないかくらいの時期だったのでかなり忙しく、寝れない帰れないが数年続いたのでかなり辛かったです。結局体を壊してしまい、半年ほどずっと寝ていたので乗り越えられてはいないのかなと思うのですが、家族や友人にサポートしてもらい、元気になりました。

ー キャリアの中で一生忘れられない瞬間、経験は何でしたか?

とある写真のコンテストで優勝して、無重力状態でファッション撮影をした事です。今までの人生で一番大変な撮影だったのですが、一生忘れられない思い出になりました。


ー 写真以外にも、若井さんが金継ぎもされていると伺いました。素晴らしい趣味ですね!何がキッカケで金継ぎに興味を持ったのでしょうか?

ありがとうございます!元々ハウスメイトのカップを割ってしまった際に、なんとか治せる方法は無いかと調べて金継ぎを知りました。コロナ禍で仕事が全然なかった時期に自分のお気に入りのカップを割ってしまい、時間もあるしと体験に行きました。
あと丁度その時期に物凄いを失恋してしまい、バラバラに割れた食器を見て、「自分みたい」と思いました笑。調べたところ金継ぎには修復という観点から、心を癒す効果もあるようで、本格的にやってみようと思いました。あとイギリス滞在を通して、逆に日本の文化や伝統に興味を持つようになり、天然素材を使用しているしゴミの原料にもなるので、金継ぎはサステナブルなものであると知りさらに興味が湧きました。


ー 金継ぎにおいて、最も難しい部分と最もやりがいを感じる部分はそれぞれ何だとお考えですか?

最も難しい部分は、修復する器に合わせてどのように直すか、デザインするか考える事だと思います。
最もやりがいを感じる部分は、一番最初にバラバラになったパーツを接着するプロセスしょうか。形が元に戻るというのはとても嬉しい事ですね。

ー フォトグラファーとして活躍したいと思っている人に何かアドバイスはありますか?

今スマホやデジタルの普及やAIの出現で写真業界自体落ち込んできていると思うのですが、そんな中でもオリジナリティ、自分らしさを大事に制作する事でしょうか。あと今の若い世代は所謂タイパ、コスパ重視だそうですが、技術職なので時間をかけたり苦労しないと習得出来ない事や学べない技術もあると思います。打算的にならず、やりたい事に邁進していってほしいです。

ー 最後の質問になりますが、現在のお仕事をされている一番の理由は何だと感じますか?

単純に自分にとって楽しくて得意な事だからだと思います。仕事は人生の中でも特に長い時間を占めるものなので、楽しいと感じる事を仕事にするのが一番だと思います。


取材・文:Mazlina Olga
写真:Wakai Reiko

若井玲子さんについての詳細やSNSは、以下のサイトをご覧ください。
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