IVANA MICIC: 先駆的なファッションフォトグラファーとの対話

瞬く間に進化する写真界には、慣習にとらわれず、まったく新しい視点で産業を変えるパイオニアたちが存在します。今回、東京を拠点にするファッションフォトグラファーのIvanaさんにお話を伺う機会をいただきました。ストリートフォトグラファーとしてのスタートから、ファッションの世界へと導かれ、有名なブランドとのコラボレーションを果たしているIvanaさんに、彼女がクリエイティブな旅の途中で学んだ貴重な教訓、そして男性主導の業界を切り開く上での彼女の考え方ついてお伺いしました。どうぞ最後までお付き合いください。

ー  本日はお時間をいただき、ありがとうございます!自己紹介をお願いしてもいいですか?

まずは、イヴァナです(笑)短くて覚えやすいので、人からはよくイヴァと呼ばれています。フォトグラファーで、ビデオの撮影もしています。7年前から日本に住んでいて、最初は東京外国語大学で研究生をしていました。卒業後はフォトグラファーとしてフリーランスの仕事を始めました。あと、異なる柄のソックスを履くのが好きで、アディダスの大ファンでもあります。コーヒーと黒ごまも好きですよ!

ー うわー、具体的ですね(笑)。

小さいことなんですけど、面白いかなと思って!(笑)

ー どのようにして写真、特にファッションの写真に興味を持ったのでしょうか?

正確にはあまり覚えていないのですが、大学の卒業が迫り、本当は就職面接を受け始めなければならなかったのですが、私はそれに全く興味がなかったんです。そんな時、大学のある人からフリーランスのフォトグラファーになったらどうかと提案され、モチベーションをもらいました。実際にフリーランスのフォトグラファーになれるとは思えなかったんですけどね…日本で外国人がフリーランサーになることは、経済的な視点から非常に難しいことです。ただ、その人がそう言ってくれたことで、「他人が客観的に見て言ってくれているのだから、大失敗することはないかもしれない。大丈夫かも!」と思って、試してみました。とても急な進路決定でしたけどね。昨日まで学生だった私が、次の日にはもうフォトグラファーだと言っているのですから。 

ー 彼がそれを提案した理由は、その時点でIvanaさんが既に写真を撮っていたからですか?

そういうことでもありませんでした。それまで主にストリートで写真を撮っていたのですが、今の時代に考えられているようなストリート写真ではありませんでした。優れたストリートフォトグラファーがたくさんいて、彼らの作品は素晴らしいものです。私の写真はかなり酷かったですね。街でランダムな瞬間や物をパシャリと撮っただけで、考え抜かれた構図とは言えませんでした。そこから本気で始めることにしました(笑)。それまでは正直なところ、趣味の範囲に過ぎませんでしたので。 最初の頃はポートレート写真にとても興味があり、人物を撮っていました。しかし、ある時期から、1年ぐらい経った頃でしょうか、自分のポートレート写真をもっと磨こう、もっと面白くしようと必死になって努力し始めました。そもそも、フォトグラファーとして、ポートレートにはあまりできることがありません。被写体がメインのものですから。面白い被写体を見つけることはできても、それを改善するために個人的にできることは大して無いわけです。その後、もっと洋服にこだわってみたり、スタイリングや背景を考えたりする実験を始めました。その結果、私がインスピレーションを受けたり、美的感覚を感じたりしたのは、ほとんどがファッション写真だったことに気がついたんです。それが自然と融合していったような。私のポートレートが自然な流れでファッション写真へと変化していったことで、子供の頃から私は洋服や奇妙な組み合わせに興味を持っていたことに気づきました。母をぞっとさせるほどの服装をしたりしてました。そして自分で髪を切っていたこともあります(笑)。恐ろしかったです。前髪が完全に台無しになった写真や、クレイジーな服装の写真もあります。そして、それらがすべて繋がっていることに気づいたんです。 でも、そのことに気づいたのは、すでにその二つが互いに交わり始めた後だったんです。そして、instagramやネットのお陰でポートレートよりファッション関連のブッキングが多くなっていきました。かつては音楽アーティストのアルバムカバーやライブ撮影、様々なアーティストのポートレートを撮影することが多かったのですが、知らぬ間にファッションに関連する撮影、カタログ、ルックブックなど洋服にまつわるものが増えてきたという感じです。


ー 急な変化だったとおっしゃいましたが、最初は大変でしたか?また、足を踏み入れるための最初のステップはどのようなものでしたか?

どうかな…写真の世界に足を踏み入れるための最初のステップは、自分自身のウェブサイトを作ることでした。当時の私のinstagramは本当にひどく、ごちゃごちゃしていて、この人が実際に写真を撮っているとは思えない程の状態でしたので、新しい写真とポートフォリオが必要であることに気づきました。人々に「私はフォトグラファーです」と伝える際、どんなものを見せるべきでしょうか??ですので、私は3日間でウェブサイトの作り方を学びました。当時私のポートフォリオにはたった10枚の写真しかありませんでしたが、その多くはファッションセンスの良い友人に半ば強引にポーズを取らせただけのものでした。私が撮影場所を選び、彼らには一番素敵な私服を持ってきてもらい、それを10枚ほど写真に撮って終わりです。そしてそれらをウェブサイトに掲載し、そして恥ずかしげもなく東京のフリーランスモデルに声をかけて、「これが私のウェブサイトで、これまで撮影した10枚の写真です。一緒にテスト撮影をしていただけませんか?」と言っていました。何かしらの幸運に恵まれ、彼らはなぜか「YES」と言ってくれたのです。


ー もしかしたら、幸運ではなく、Ivanaさんが上手だったからではないでしょうか(笑)!

でも私は完全に未経験者でした。しかも、その10枚の写真しか持っていなかったんですよ。写真撮影というものがどういうものなのか、彼ら(モデル)あるいは私が何を求めているのか、そういったことの経験値が無い状態で写真撮影を企画し、組織していました。衣装を組み合わせたり、場所を考えたり、スケジュールや全体のタイムラインを作成したりと、全力で取り組んでいました。ポートフォリオがほとんどない状況だったため、より多くの作品が必要だと思っていました。週に何度も撮影していたため、いくつ撮影を行ったか数えることすらできませんでした。自らに課した撮影のペースは非常に過酷でした。そしてどういう訳か、撮影に参加してくれたモデルたちの友人の別のモデルが私のことを聞き、他の人たちにも広まっていきました。まるで火がついたように広がっていったのです。

ー すごいですね!

正直、単純に運が良かっただけだと思っています。東京にはまだ活動しているフリーランスのモデルが数人いて、私が当初、完全な未経験だったにもかかわらず「YES」と言ってくれたことに感謝しています。当時彼らは既に経験豊富で、数年間この仕事をしていたんです。一方、私は初心者でした。それでも彼らは「YES」と言ってくれました。ありがとう、みんな(笑)。



ー 誰もがどこかでスタートを切らなければなりません。経験がなければ仕事は得られませんが、仕事がなければ経験も得られません。だから、それは…

悪循環ですね!

ー その通りです!しかし、多くの経験をされた今、その中で一番好きな思い出というか、写真家として一番印象に残っている経験は何でしょうか。

いくつかありますが、どちらも2019年の出来事です。最高の一年でした(笑)。何故かたくさんのことが起こりどういう訳か日本を行き来する人々もたくさんいました。おそらく外国からの訪問者や観光客が最も多かった年だったでしょう。そして、ある男性ファッションブロガーが私に連絡をして来てくれて、彼の東京でのコンテンツのために簡単な写真撮影をお願いされました。普段は男性のファッションの仕事はしませんが、彼のファッションスタイルがとても気に入ったし、彼は長い間この仕事をしていました。せっかく私の作品を気に入ってくれたので、私も快く引き受けました。写真撮影をした後、彼がまた戻ってきて、もう1回撮影をしました。そして、昨年ロンドンを訪れていた時、メイクアップアーティストと街を歩いていたら、彼がスマートフォンを見ながら街角に現れました。私たちが最後に会ってから3年が経っていました。彼が顔を上げたので私は「マシュー!」と声をかけました。彼は私を見ましたが気がつきません、なぜなら私はロンドンではなく東京にいるはずでしたので。そこから3秒くらいしてようやく目の前にいるのが私だと気がつき「まさか!ここで何をしているの?」って(笑)。とても世界が狭いと感じた瞬間でした。本当に素晴らしかったです。この仕事で一番大切なことは、出会った人々だと思います。世界は狭いです。連絡を取り合わなくても、街の中で偶然再会することがあります。それは本当に素晴らしかった!

もう一つは、あるバンドが日本でミュージックビデオの制作を依頼してきて、私が勤めていた会社がその仕事を引き受けました。彼らは韓国や中国のツアーの後で、日本に来てミュージックビデオを撮影する予定でした。しかし、彼らのビデオグラファーがツアーをキャンセルしてしまったんで、私とパートナーがそのバンドと一緒に行くことになりました。正直大変でした。私はあまり旅行に対して柔軟な方ではないんですよ、少なくとも当時はそうでした。特に中国は巨大な国ですから。ライブハウスやコンサート会場にたどり着くためには、5つの交通手段を乗り継がなければなりませんでした。飛行機からバスに乗り換えて、それからタクシーに乗り換えて、歩いて、我々は一体どこにいるのでしょう?中国の本土のど真ん中にいるんです!バンドはかっこよくて、パフォーマンスも素晴らしかったですが、次の日は出発して別の場所に行かなければなりません。彼ら(バンド)は毎年、一年中そういうことをやっていますが、私はとても疲れ果てていました。でも、ライブの前後に観光するのは楽しくて、素晴らしい経験でした。そして、2ヶ月ほど経って家に帰ると、今までで一番好きな経験のひとつになったような気がしました。最高でしたよ。もう一度行きたくなりました(笑)だから、その二つの経験が一番思い出に残っていますね!

ー それはよくあることですね。その場にいる時は「なんてこった!二度とやりたくない!」と思うけど、帰ってくると「明日にでもまた行こう!」ってなります(笑)。

まったくその通りです!本当に楽しかったんです。知らないことがたくさんあったんですよ。例えば韓国では、韓国語がわからないので、何を食べているのか、どこに行っているのかもわからないんです。常にそれを何とかしようと苦労していました。でも帰ってくると「とても楽しかった。また行きたい!」って思います。

ー すばらしい経験をされたんですね!ちなみに、今やっていることは、フォトグラファーとして始めた時の目標や夢が叶ったと言えますか?

実はそうでもないんです。最初に始めた時の主な目標は、みんなと同じように、Vogueの表紙に載ることでした。ただし、Vogueのアーカイブは永遠に残るという意味で、誰かのアーカイブに残るようなものを残したいんです…埋もれたままですけどね(笑)。偉大なものの中に埋もれて、一枚の写真でいいから何かしらの遺産を残したいんです。それで十分でした。でも後で気づいたのは、仕事を通じて旅行がしたいということです。様々な場所を訪れ、様々な国で仕事をしたいと思うようになりました。また、セルビアの雑誌とも一緒に仕事をしたいです。私はセルビア出身なので、今この瞬間の一番の夢かもしれません。少し自分のルーツに立ち返って、セルビアのファッションセンスを探求したいんです。なぜなら、日本でしか働いたことがなくて、セルビアで働いたことがないんです。全く新たなの経験になる思いますので、もう一度セルビアに行って見逃したことを見てみたいんです(笑)。そういうことかな…そして私の現在の目標は、パリで所属できる事務所を見つけることです。ヨーロッパで半年間仕事をしたいですが、まだ進行中です。ですので、今後の展開を見極める必要があります。また、フランス語も勉強しています。なので、もう一つの目標としてフランス語を話せるようになることもありますね。ただ、まだ上手ではありません(笑)。

ー でもそれが学んでいる理由ですよね。

でも歩みが遅すぎるんです(笑)!日本語が最も難しいと言われてる中で私はそこそこ上手に話せているので、フランス語は簡単に習得できるだろうと思ってましたが、とんでもない!フランス語はほんとに大変です(笑)!

ー でも、年をとってから勉強もどんどん難しくなってしまう気がするんですよ(笑)。

私もそう思います。勉強する時間を見つけるのも大変ですが、最善を尽くしています。週に2回授業を取ってます…どうなるかな(笑)。

ー すごい、本当に頑張っていますね。

頑張っていますよ。頑張るしかないです。日本から少し離れる予定なので、その言語も学びたいです。

ー 夢の話になりましたが、もう少し詳しく聞かせてください!Ivanaさんの目標や夢を達成するためのプロセスは具体的には何でしょうか?

まるで頭でレンガの壁を突き破るような感じです。

ー すごいですね(笑)!

全く考えないことです。あまり賢いやり方ではないと思いますが、過度に考えすぎるのもまた、あまり賢いことではないと思います。どちらかと言えば、中間の方がいいです。ある程度の計画を立て、最善を期待することが理想的だと思います。それがベストマッチですね。ある程度の計画を立てること、そしてもし何かがうまくいかない場合の第2案も持つこと。でも私自身は第2案を持っていないのでただ飛び込むだけです。途中で怪我するかもしれませんが(笑)。

ある程度の計画を立て、最善を期待することが理想的だと思います。それがベストマッチですね。

Ivana

ー カッコいいやり方ですね!

自分の若い頃の自分には同じことをやらないようにアドバイスするでしょうね。

ー なぜですか?

うーん、どうかな。いつでも何かがうまくいかない可能性があるからです。たとえば、病気になったり、緊急事態が発生したりするかもしれません。だから、非常に緊急で絶望的な状況に備えて、ある程度の安全策を持つべきだったのかもしれません。正直に言うと、健康上の問題で時間と努力を捧げることができないような場合を除いて、人々が抱える問題というのは大抵どうにか解決できると思います。だから、そのような状況では、ある程度のバックアッププランが必要だったかもしれません。

ー もし若い頃の自分にアドバイスができるとしたら、どんなアドバイスをしますか?

私が行ったすべての写真撮影には、もっと意図を持つことが重要だったと思います。テスト撮影やコラボレーション撮影など、個人プロジェクトを今でも行っていますが、昔はあまり考えずに活動していたので、多くの時間を無駄にしていたと感じます。例えば、やっていることが目指す場所への手助けになるのか、自分のビジュアルに対する美意識に合っているのか、といったことについて一切考えていませんでした。目的を持つことで、価値がより高まると思いますが、あまり考えもせずにたくさん実験的なことを行っていました。でも、その理由は二つあったと思います。経験不足と、ビジュアルに対する軸の欠如です。美的な面では、自分が何を求めているのか確信が持てなかったのです。これは、私が突然写真撮影の世界に入ってきたため、ある程度は普通のことかもしれません。しかし、もし落ち着いて自分が美的にどうありたいかを考えていたら、もっと学びがあったと思います。だから私は、若い頃の自分に言いたいのは「少し考えてみて。何が好きですか?」。おそらく何かしらの答えが見つかるでしょう。

ー でも、それを実現できたと感じていますか?

そうは思わないですね。今までで一番、自分が望んでいる場所に近づいたとは思うけど、個人の好み、センスや美的な理想は変わるものだと思います。だから、現在の目標や理想に到達したとしても、数年後にはまた変わっていくでしょう。ファッションにもトレンドがあります。それがどのよう変わっていくか、洋服が変わり、人々が変わり、新しいモデルが現れては去っていくんです。メディアも変わります。例えば、フィルム写真は今とても流行っていますから、そういったことも影響になるでしょう。例え今の状態が自分のやりたいことに一番近かったとしても、変化することも大切だと思います。だから、数年後には少し仕事のスタイルを変えるかもしれませんね。

ー それは素晴らしいですね。では、現在の立場に至るまでの道のりで、最も大きなチャレンジは何だったでしょうか?また、それをどのように乗り越えましたか?

最大のチャレンジ…そのチャレンジをまだ完全に乗り越えていないと思います。私はかなり内向的な性格なので、人々との交流やコミュニケーションが大きなチャレンジになっています。単純にコミュニケーションすること自体が今までも大きな苦労でした。それは以前も今も変わっていません。また、自分のビジュアルにおいての目標や自分自身の認識、やりたいことを持つことも大きなチャレンジでした。以前はコラボレーションの提案があれば、単に新しいことを試したいという理由で「YES」と言っていました。現在でも新しいことを試したい気持ちはありますが、それがなぜ必要で、そしてどのような目的のためなのかをちゃんと把握しています。以前はそれが最大のチャレンジでした。そして、人々とのコミュニケーションや仕事のやり方。それが大きく変わったのは、こちらのエージェンシーと契約したときです。いきなりマネージャーやアシスタントと日常的にコミュニケーションを取ることになったのですが、毎日少しづつ練習することで変わっていきました。だからここに座ってあなたと話しているのも、そのチャレンジを乗り越えたからです。もう恥ずかしがることはありません(笑)。どんなチャレンジでも、日々の少しの練習が大きな助けとなると思います。


ー でも、先ほどおっしゃったように、あまり外向的ではない性格ですが、最初にメールを送ったり、モデルに連絡を取ったりする必要がありましたよね…それは大きな挑戦だったのではないでしょうか?

まさにそうです。そして、最初に拒絶されたときに、個人的に受け取らないのも大きな挑戦でした!最初はあまり多くの拒絶を受けたわけではありませんが…雑誌からよく拒絶されます。誰でもそうです。たとえば、載されたい雑誌の次の号で掲載してほしい写真が、雑誌が求めていたものではない場合、不採用になります。彼らは次の号に違うテーマを計画しているかもしれません。その理由で採用しないでしょう。または、非常に些細な理由があるかもしれません。たとえば、彼らのスケジュールがいっぱいで、すでに十分な数のカメラマンがいて、掲載作品も十分あるという時。それも不採用の理由になるでしょうけれど、それは個人的な理由では無いですから!あるいはもっと単純なことかもしれません:例えばあなたがフィーチャーしたブランドが彼らの好みに合わないとか。それはあなた自身のことではなく、編集者がこのブランドや衣類のアイテムが好きではないからです。そういった理由で「NO」と言われたり…まったくの初心者で、経験が浅く、まだ自身が無いときには、個人的に受け止めてしまうものです。「ああ、彼らは私を嫌っている!」といった具合にね。今ではそんな自分自身に笑ってしまいます(笑)。

ー その点でどのようにして現在の状況に至ったのですか?どうやって個人的に受け止めなくなったのでしょうか?

他人と話して、経験を共有したからです。他のフォトグラファーやファッション編集者、スタイリスト、メイクアップアーティストと話すことで、異なる視点を得ることができます。そうすることで、自分自身に関係がないことだったと気づくのです。クライアントがあなたの提案を断った場合、彼らは他のフォトグラファーを見つけたのです。それは大したことではないんですよ!彼らがあなたの作品を嫌っているわけではありません。単により都合の良い相手を見つけたのです。しかし、彼らや他のクライアント、ブランドの広報担当者と話さなければ、これらのことを知ることはできません。そうすると、考え込んだり、自信を失ったりすることになります。ただこの仕事をすると、そういった考え方は生産的思考ではないと思います。もちろん、私自身もそう思ってしまうことがあります。「ああ、本当にがっかりだな。この雑誌のエディトリアルを撮りたかったのに、彼らは興味がないんだ。ああ、困ったな!」と。でも、悲しみを受け流すようにするのです。大丈夫です、乗り越えられますよ。

ーでも、時々再チャレンジすることはありますか?例えば、雑誌の場合、今回はうまくいかなくても、次回はうまくいくかもしれませんが?

もちろん、その通りだと思います!あまりにもしつこくなければ、再度チャレンジできますよ。普通は、数ヶ月ごとに連絡するか、年に2回連絡するように言われます。もし雑誌が年に1回しか発行されない場合、3ヶ月ごとに提案を送る必要はありません。月に2回発行される雑誌もありますけどね。発行頻度によります。ただし、自分自身は変わりますし、上達しますし、自分の美的なビジョンも変わります。だからもし提案しても気に入られなかったとしても、次回やその次の提案が気に入られないとは限りません。ただ、誰と一緒に働きたいかによります。もし掲載されることにあまり興味のない雑誌なら、いつもしつこく追いかける必要はありません。しかし、本当にその雑誌が好きで、新しい提案ができると感じるなら、再度連絡することはいつだって良いことです。クライアントにも同じことが言えます!ポートフォリオを更新するため、私たちはテストシュートやコラボレーションを続けています。だから新しい作品を見せないわけがありません。彼らはあなたを秋冬コレクションにブッキングするかもしれませんし。または春コレクションに使用してもらえるかもしれません。予測できませんよ!

ー 前向きで素敵ですね!本当に重要なアドバイスです。フォトグラファーの仕事に限らず、人生のどんなことでも適用できるアドバイスだと思います!

そうですね。どんな創造的な分野やフリーランスの仕事においても同様ですね。

ー そして、外国人女性としての日本でのフリーランス経験はどうでしたか?誰にとっても簡単ではないと思いますが、日本で外国人女性として活動する経験はどうでしたか?そして、そこから得た最も大きな学びやアドバイスがあれば教えていただけますか?同じようなことを試みる人の参考になるかもしれません。

それは難しい質問ですね。女性のファッションフォトグラファーにあまり出会わないし、実際出会ったこともありません。ただし、数人いると聞いたことはあります。私の場合は、日本語で話せることがとても役立ちました。クライアントの選択肢が制限されないので、どのクライアントでも問題ないです。だから、日本語を学ぶことは重要で、そうでなければ難しいです。クライアントが求めているものを理解できない場合、自信を持ってクライアントが求めているもの提供することはできないと思います。ただ日本で撮影したいと考える外国人や外国のクライアントはたくさんいます。日本語を知らなくてもここで働くことは不可能ではないと思いますが、日本語が話せると、はるかに多くの機会があります。女性として、私はその点で問題を抱えたことはありませんでした。

たったひとつのアドバイスがあります。もし女性がファッションフォトグラファーとして働きたいのであれば、ジムに通うことをおすすめします(笑)。なぜなら、この仕事は非常に疲れるし、特に小さなチームや一人で働いている場合は、多くの体力を必要とします。機材を運ばなければならないし、持久力が必要です。一日中仕事をして、ライトを設置し、解体し、レンタル店に返却し、家に帰って編集をし、寝て、翌日また同じこと繰り返します。それは過酷で女性にとって最もハードルとなる要素だと思います、体力不足というのが…私も時々苦労します。何かが重すぎて持ち上げられないときや、ビデオ撮影をしているときにジンバルを持っているときもそうです(笑)。私の腕は強くありませんので、それを持ち上げて長時間安定させるためには運動する必要があります。

私は女性のアシスタントと動いていますが、彼女の他の撮影現場での経験についてもよく話しています。そこは、管理上の問題がよくあるようです。例えば、沖縄での撮影のためにチーム全員が宿泊することになります。予算の都合で非常に安価な宿泊施設を借りることになりますが、男性全員が同じ部屋で一緒に寝るという状況になることもあります。もしチームの中に女性がいる場合、彼女はその状況に適応するか、20人の男性と同じ部屋で寝るか、あるいは行くことができないかもしれません。クライアントは別室の費用を負担する余裕がないためです。それは疲れることですし、女性だからという特別扱いがないですよ。むしろ、彼らが非常に安価な宿泊施設に全員を収容する方法をどうやって解決するかという問題です。これは起こることであり、女性がそれを個人的に受け取るべきではないと思います。もし異性と同じ部屋で泊まるという状況に我慢できるのであれば、問題ありません。しかし、逆に他の人々がそれに不快感を抱いているかもしれません。同じ部屋に泊まる男性たちは異性の存在が気まずいかもしれません。私たちが女性だからということではなく、ただ彼らの時間とお金を価値あるものにしようとしているだけです。このような状況では、何もできないと言えるでしょう。

ー 確かに、始めたてのときには考えもしないことかもしれませんね。

私は2019年のツアーで、すべて男性のバンドスタッフと一緒に宿泊しました。私が気にせず、彼らも気にしませんでした。しかし、もし私が気にするタイプだった場合、それは問題になるかもしれません。なぜなら、バンド側で別の部屋を見つけるためのお金や時間や意思がないからです。仕方ないですね。

ー 何が起ころうとも、適応する必要がありますね。

はい、それはとても重要ですね。そして、自分のために体力を鍛えて強くなることも大切です(笑)。

ー そのアドバイスは本当に良いですね。写真を撮るだけで、主にデスクで編集作業をすると考えがちですが、実際には身体の力が必要だとは思いもしないかもしれません。

私は女性としてはかなり体力がある方だと思っています。正直に言って恥ずかしくはありません。でもたまに本当に疲れますよ。先ほども言ったように、ジンバルとか、機材やスタンドというのは本当に重たく、巨大なんです。なので、実際に力持ちだったとしても一人では反対側まで届かないんです。だから確かに筋肉が必要です、そして手助けも。

ー それは本当に素晴らしいアドバイスですね。ありがとうございます!

参考になればいいです。誰かが私にも教えてくれていたらいいなと思います。

ー だからきっと、Ivanaさんが教えてくれたことで誰かの参考になると思いますよ!

ファッション写真は主に手作業です。だから私は綺麗なネイルができないんです(笑)。

ー なぜそうなのですか?

重い物を持ったりぶつけたりすることで、ネイルが割れてしまいます。怪我しないように、爪を長くすることができません。大きなチームで働いている人々にとっては違うかもしれませんが、私のようにとても小さなグループで働く場合、ほとんどの場合はこのような状況です。しかし、大きなチームの場合は、大丈夫かもしれません!手が多ければ多いほど、作業は楽になります。

ー将来は、より大きなチームで働きたいですか、それともアシスタントと一緒に作業しながら、多くを一人でこなしたいか、どちらでしょうか。

現在、私はアシスタントを1人雇っており、時には3人で仕事をします。私はアシスタントの存在に本当に感謝しています。なぜなら、フィードバックが好きだからです。次の撮影の計画を立てる際に、私がばかげたアイデアを出しているとしても、フィードバックをもらいたいです。彼らは私が見落としていたことに気づいたり、より良いアイデアを思いついたりするかもしれません。アイデアを議論することは常に良いことです。それはアシスタントである必要はなく、この業界について少しでも理解している人なら誰でも構いません。理解しない方でもいいと思いますよ!ただし、チームの規模が大きいか小さいかはあまり気にしません。なぜなら、非常に大規模なグループであっても、15人または20人ほどであっても、それぞれがやることがあります。誰も邪魔をすることはありません。少なくとも多過ぎて困ることはありません(笑)。多くの人々が手を動かしてくれると、とても助かります。


ー 最後の質問になりますが、現在フォトグラファーの仕事をされている一番の理由は何だと感じますか?

ああ、それは一番難しい質問じゃないですか!

ー だから最後の質問なんですよ(笑)。

まあ、洋服が好きということです。女性と共に洋服を見せることが好きなんです。彼女たちの気分が最高になったとき、例えば、彼女たちがファッションアイテムを買い、それらに身を包まれ素晴らしい気分を味わっているとき、彼女たちは最高の姿を見せます。自分自身も同じです。自分が身に着けているものが好きです。そして好きなものを身に着けて笑顔になるのは素晴らしいことです。これが一つの理由です。もう一つの理由は、写真撮影の全体的なプロセスが本当に好きで楽しんでいることです。チームと一緒に働いて、一つの写真やセットアップを作り出す雰囲気が好きです。彼らと一緒にこのビジュアル表現を作り出して、次のコレクションを具体化するのが好きです。だからここにいて、それを味わいたい。ファッション写真の世界に存在したいんです。私のファッション写真は、なにも特別な深いメッセージを伝えようとしているのではありません。写真や特にファッションは政治的であり、社会科学に関連することもあり、様々な要素もあります。ただ、私自身は現時点ではそんなメッセージを持っていません。年をとったらいつか持つかもしれませんが、現時点ではただここにいたいんです。写真を撮りたいんです。クライアントが持っているコレクションのアイデアを形にするのを手伝いたいんです。洋服を購入し、着る女性たちや、それらを着て写真の中でポーズを取る女性たちが素晴らしい気分になり、楽しむことが重要です。それはとても大切なことです!それを撮影現場でもやろうとしています。ストレスを感じすぎないよう、適度に楽しみながら。

ー それは確かに重要ですね!特に、Ivanaさんがおしゃったように女性のフォトグラファーが多くない中で、若いモデルと一緒に働く場合、彼女たちもおそらく力を感じ、安心感や安全を感じるでしょう。同じ女性として、彼女たちをどのように表現し、安心感を与えるかを知っているからです。

女性は男性とは異なる視点でファッション写真を捉えると言われています。

芸術やクリエイティブな仕事というのは、その人自身であったり、何が好きかといったことによって導かれるもので、過度に考える必要は無いと思っています。

Ivana

ー  それに同意しますか?

うーん、どうかな。性別の違いよりも、ファッション写真のジャンルによって人々の視点は異なると感じます。彼らは異なるものに触発され、影響を受けます。私の場合はストリート写真ですし、他の人たちはジャーナリスティックな作品や他のものに影響を受けるかもしれません。だから、それらが個人の人生観や洋服への視点と混ざり合うことで、見る人にとって魅力的な要素となります。それが本当に好きです。だから、今後も、老いて疲れるまではこの仕事を続けたいと思っています。もしかしたら、その後も。写真には引退が無い、そういうものなのかもしれませんね。人工知能が私たちを完全に置き換えるまで。でも、それでも写真は撮っていいんだと思います。

ー カッコいいですね。フォトグラファーになるというアイデアを得たのは…同級生の誰かが「やってみたら?」と言われたことで。

同級生ではなく、匿名の人からですけどね(笑)。

ー その匿名の人の提案がきっかけで、今ではずっと写真を続けることを考えているなんて、本当に素晴らしいですね。

でも、その気持ちはずっと心の中にあったんです。ただ私はとても臆病者でした。誰しも少しの後押しが必要なんです。

ー そして、Ivanaさんを見て、他の誰かも同じように感じるかもしれませんね!

本当にそう願っています。なぜならそれはもう一つ重要なことだからです。あまり考え過ぎないで欲しいと思っています。芸術やクリエイティブな仕事というのは、その人自身であったり、何が好きかといったことによって導かれるもので、過度に考える必要は無いと思っています。また、悪い作品であろうが作品は作品です。私も時々、自分の作品が駄目だと感じます。でも大丈夫です。今回は失敗しましたが、次回はもっと良くなるでしょう。それが学習の過程でもあります。どこで失敗したかわかっているので、それを捨てて、リサイクル箱に入れて次回に活かしてみてください。創作はいつもいつも成功するわけではありません。常に完璧な状態のパッケージを作るロボットでではないですから(笑)。大変な時もあるかもしれませんが、頭に描いたことをやってみることが大切です。

ー そうですね、エド・シーランさんでさえ、良い曲を書くためには悪い曲も吐き出す必要がある、と言っていました。私たちはしばしば、良い作品が完成するまでの過程で生まれた悪い作品と他人の完成品を比較して「ああ、自分の作品はそれほど良くない」と感じてしまいます。ですが、私たちが自分の作品と比べて落ち込んでしまうような、世にある素晴らしい作品達もまた、たくさんの駄目な作品を踏み台にして生まれたのかもしれませんよね。

でも、駄目な作品でも好きになる人がいると思います!例えば、TikTokにコンテンツを投稿することに怖気づく人たちがいます。なぜ怖気づく必要があるのでしょう?だって、誰かがそれを気に入るかもしれないじゃないですか!嫌われないかなんて考える必要はありません。だから、ただ投稿してみてください。隠す必要はありません!(笑)

ー 隠す必要はありません、投稿してもらいたいですね(笑)。

はい、本当に投稿してください。大丈夫です!そして、たとえコメントで批判されたとしても、コメントを読んで、次回に活かせる面白いアイデアが見つかるかもしれません。

ー  完璧になるまで隠れているよりも、本当に前向きで、もしかしたら一番楽しい方法かもしれませんね!

作品は完璧である必要はありません。大丈夫です!

ー  かっこいいですね。このお話のとてもいい着地点だと思いました。ご自身の経験やアドバイスを共有していただき本当にありがとうございました。きっとこれが誰かの背中を押すキッカケになるような気がします!

そう願っています。

ー お時間をいただき、本当にありがとうございました!


取材・文:Mazlina Olga
写真:Micic Ivana

Ivanaについての詳細やSNSは、以下のサイトをご覧ください。
INSTAGRAM
WEBSITE

コメントを残す