[INTERVIEW] MITCHELL KEANU: タトゥーとイラストレーションによる幸福の追求

このインタビューシリーズの最初のゲストを決めるとき、即座にこの人がいいと思いました。Mitchell Keanu(ミッチェル・キアヌ)は、オランダのアイントホーフェンを拠点に活動するイラストレーター兼タトゥーアーティストで、ブラック・ベア・インクに所属しています。彼は、黒を基調とした素晴らしい傑作を肌に描き出すだけでなく、最も親切な人でもあります。

アートを始めた頃の話から、タトゥーの世界への転身、インスピレーション、そして初心者向けアドバイスまでお話を伺いました。


── まず最初に、インタビューに参加していただき、ありがとうございます。Mitchell Keanuさんは私のタトゥーアーティストであり、かなり前からの知り合いなので、最初のゲストとして来てくださることをとても嬉しく思っています。まだMitchell Keanuさんを知らない読者に、自己紹介をお願いしてもいいですか?

もちろんです。Mitchell Keanuです。タトゥーアーティストになって2、3年、タトゥーを入れ始めて約4年になります。タトゥーアーティストになる前は、オランダのブレダという街にあるアートアカデミーに通っていました。試行錯誤しながらも、無事に卒業しました(笑)。学校全体で約4年間、そこでイラストレーションを学びました。クラスのほとんどの人は、アートアカデミーの全体的な流れや勉強の仕方をよく理解していましたが、僕はその流れや全体的なシステムが自分に合っているかどうかに疑問を持ち、不安を抱いていました。なぜなら、教師たちは僕に何かを教えようとしている一方で、僕の作品を個人的に批判しているようにも聞こえました。まるで個人的な好みのようにね。でも、無事に卒業し、それ以来、創作と描くことを止めることはありませんでした。

── 素晴らしいですね。学校の経験についてまた後ほどお伺いしたいと思いますが、その前に、TOKOBA MAGAZINEでは、アーティストの旅を共有することで、これから始めようとしている人たちのモチベーションやインスピレーションを高めたいと思っています。なぜなら、皆さんお気づきかもしれませんが、ソーシャルメディアでは、大体の人が「ベスト・オブ」のみを投稿しているからです。私もそうなので、それを批判するつもりはありませんがが、何かを始めたばかりのときに他の人の投稿を見ると、自身の活動ですでに成功している人たちが、私たちが今いるところを経験してきているということを、時々忘れてしまいます。

その通りですね。

── ですので、Mitchell-Keanuさんの創作活動についてお伺いしたいと思います。そもそも絵を描くようになったきっかけは何でしたか?

本当に小さい頃から絵を描いていました。5、6歳ごろぐらいからだったと思います。その時は、子供だったので当たり前のことですが、自分が描いている絵が良いのか悪いのか、何かいいものを描いたのか、そういうことは分かりませんでした。子供は楽しんでやっているだけだからです。そして、絵を描いてとても癒されてリラックスできました。今もそうですが、昔はとても内気で内向的な子だったので、紙やクレヨン、マーカーなどを持っていたときは、自分だけの小さな世界にいて、想像力を膨らませながらものを作っていました。そして、小学校のどこかで「君の作品はいいね!」と言われるようになりました。でも、何が良くて何が悪いのかがわからなかったので、みんなが何を言っているのかわかりませんでした。花や手を描いたら、まだそれが完璧なものじゃなくても、本物に似ているかもしれません。そのときに、「そうか、綺麗なものや、本物に似ているものは、「良い絵」と思われるらしい」と理解し始めたのだと思います。それが、本気で練習を始めたきっかけでした。そして、幼い頃から、両親はいつもサポートしてくれました。常に正直で、「ああ、すごくいいね!」と言うだけではなく、少しずつ、子供に言えるレベルの範囲で、常にフィードバックをくれました。結局絵を描くことをやめたことはありません。高校や他の学校に進んでも、ただひたすらに自分の技術を磨き続けました。最初から美術のクラスで勉強するようになったわけではありません。普通の学校に行って、適当にやっていただけです。高校に入ってから、もっとクリエイティブな教育に目を向けるようになり、それがきっかけで本格的に活動を始めたのです。

── その時は既にアートをプロとしてやっていきたいと思っていましたか?それとも後々仕事としてやるかどうかはわからないけど、まずはもっと勉強してみたいと思ったんでしょうか?

既にわかっていました。若い頃はプロとしてやっていきたいと思っていましたが、絵に関する仕事にどんなものがあるかも知らなかったので、どうすればいいかわかりませんでした。イラストレーターという仕事が何なのかも知らなかったし。若い頃は「漫画が好きだからそれをやりたい」としか思っていませんでした。漫画を描いて生活したいと思っていました。どうやったらできるのかも知りませんでしたが、それが自分のやりたいことだと思っていました。そして16歳くらいだったでしょうか、実際に自分の進路に合った学校選びを始めなければならない時期になりました。その時、「よし、プロとしてやっていく方法を見つけよう!」と思ったのです。オランダのボックステルという街にあるシント・ルーカスという学校はアイントホーフェンのとても近くにあります。そこでアニメーションやビデオ編集、ウェブデザインの方向に進みました。その学校でグラフィックデザインというコースもありましたが、グラフィックデザインはどちらかというと、文字や立体との関係があり、かっこいい雑誌やポスターなどを作るためのものでした。実際にはもっと形や動きを作ることをやりたかったんです。それで、アニメーションもかっこいいと思っていて、やってみようと思ったのです。その学校を卒業して、ブレダアートアカデミーに行ったんです。ただ、アニメーションは楽しいけれど、イラストや絵を描くこととは違うと感じていました。そこで、「なるほど、イラストレーターとして働ける!そこには具体的な仕事内容がやっぱりあるんだ」と実感するようになったのです。唯一の欠点は、経理やウェブデザイナーのように、会社の面接を受けて、就職を希望すればそこで働けるような簡単な仕事ではないということです。それよりもずっと大変なんです。でも、それは後回しにして、とにかく自分のスキルを身に付け、それを実践することに集中したいと思い、それから本格的にその道を歩み始めました。

── 凄いですね。以前にもお話しされていましたアカデミーに通っていた頃の苦労話はどの様なものでしたか?そして、それでもアカデミーに行ってよかったと思いますか?なぜなら、多くのアーティストは…私の友人にもアーティストがいますが、彼女のように「アートスクールに行く必要があるのか?」と悩む人がたくさんいます。要は、クリエイティブな世界は本当に特別で、どうやって成功できるのか、何をしなければならないのか分からないからです。それについてはどうお考えですか?

まぁ、アートアカデミーに通っていたときに分かったことは、1年目はオリエンテーションのようなものだということです。最初の半分は、彫刻をやったり、文章を書いたり、絵を描いたりと、とにかく様々なことをやっていましたので、特定のクラスがあるわけではありません。ある意味、コンセプチュアルなものでした。例えば、「3Dなんとか」、「4Dなんとか」という授業がありました。3Dは3Dでものを作ること、4Dは時間や動きをイメージや記録、アニメーションで表現することを意味していました。そして2Dは明らかに絵画やドローイングのようなものでした。それらを少しずつ指定した授業や課題が割り当てられていたわけです。しかし、僕にとってはあまりにも抽象的で、何をすべきかわからなかったのです。その前に通っていた学校で受けた教育のせいなのか、それとも僕の勉強の仕方のせいなのかわかりませんが、僕には明確なものが必要でした。「何をすべきか、どのような方向に進むべきかを教えてくれれば、それを実行する!」と思っていたのですが、教師は「これで何かをやってみて、あれで何かをやってみて」という感じで、すべてが不明瞭で、「何をすればいいかはっきり教えてくれ!先生は何を伝えようとしているのかわからない!」とずっと思っていました。それが1年目でした。その後は、自分の進みたい方向を選択することになりますが、イラストレーションを選択しました。もちろん、途中からはもっと焦点が絞られていきましたが、その時に気づいたのは、先生たちが多くの知識を提供しているということでした。ダークワークや点描画、油絵具やアクリル絵具を使った絵画について教えたい場合、彼らはその方法や仕組みを1度か2度見せてくれて、それで終わりです。そこから次のことに移るということです。で、僕は、「なるほど、いくつかの主題の表面に触れて、その後は自分たちで解決しなければならないんだな」と感じました。教師が短い間に多くのことを教えてくれることを知りました。しかし当時のクラシックなアートアカデミーのように、僕たちを徹底的に鍛えることはありません。その結果、自分で何かを選択することが難しくなり、自分が何かに魅力を感じているのか、それとも教師がそれを後押ししているのかがわからなくなってしまいました。例えば、最初にドットワークや点描画の仕組みを見せてもらったとき、僕は「すごいな」と思って、もっと知りたい、もっとやりたいと思いました。でも、先生に「じゃあ、来週はチョークと木炭を使うんだ」と言われて、「でも、さっきドットワークや点描画を紹介してもらって、もっとそれをやってもいいんじゃないか」と思ったんです。そして、何かを知りたければ、実際に自分で、自分の力でやらなければならないということに気付いたのです。最初は少し面倒でしたが、やりたいことがあれば、自分のやり方で、自分に集中してやればいいのです。唯一の欠点は、基本的なことがわからなくなってしまうことだと思います。誰もその仕組みを教えてくれないので、自分で理解するしかありません。そのため、道のりは長くなりますが、その分、やりがいもあると思います。

── つまり、自分のスタイルを貫き、それに集中するしかなかったということですよね。

うん、ある意味ではね。面白いことに、特に最初の数年間は、「スタイル」という言葉は禁止されていました。絶対に使ってはいけない言葉でした。自分の作品にスタイルのようなものがあると提案しても、「いや、そんなことはまだやっていない。何かに集中する前に、あらゆる方向を見て実験する必要があるからだ」と言われました。そして卒業の年には、突然、自分たちのスタイルを確立しなければならなくなりました。最初の3年間は、自分の特別なスタイルというものを持つのはダメでしたが、最後の年には「あなたのやり方、あなたのスタイル、あなたをあなたたらしめている作品は何か」ということに急に変わったんです。そして、「おお、今さら??じゃ、これからそれを探してみよう」と思いました。

── スタイルと言えば、黒やダークなアートを基調としたMitchell Keanuさんのスタイルについてですが、どのように進化してきたのでしょうか。特に、子供の頃にドローイングを始めた頃から。

おお、それはいい質問ですね。今まで一貫していたのは、いつも黒とグレーを使っていたことだと思います。例えば、鉛筆、シャープペン、マーカー、ファインライナー、それだけです。これは僕にとって最も魅力的なことでした。アートアカデミーの頃も、インクやグレーウォッシュ、東インドのインクを使うことに集中していました。もちろん、必要に迫られていろいろなものを試しましたが、いつも黒やインクなどを使った作品に戻ってきました。それが最も一貫した部分だと思います。どんなイメージを使うか、どんなコンセプトやアイデアを採用するかという自分のスタイルに関しては、学校に行ってからの方が成長したと思います。なぜなら、ある意味では、その時に自分のスタイルや個人的な魅力が成長し始めるからです。というのも、学校で、何を好きになるべきか、何が良くて何が悪いのかを教えてもらえます。その時、自分の好みを持っているわけではなく、何かが良いはずだと感じているだけだという感覚を持っていました。例えば、私は小さなグラフィック・ノベルを描いて卒業しましたが、そこは作家であり漫画家でもあるフランク・ミラーからインスピレーションを受けました。フランク・ミラーは「シン・シティ」という作品でよく知られています。当時、教師からそれについて調べるように言われました。その後、ミラーの作品にどんどん飛び込んでいって、「なるほど、彼の作品はいいんだ。自分の作品は彼の作品に似ているし、彼の作品には魅力を感じるから、彼の作品はいいんだな」と思ったんです。もちろん、今でもその感覚を信じていますが、何を調べるべきなのか、何に飛び込むべきかを誰かに教えてもらうというアカデミーに通っていた頃の悩みがなくなって、ある意味、視野が広がりました。

特にインスタグラムのようなSNSでは、様々なものを見ることができます。それがある意味でアートアカデミーに通っていた時とは全く違うということに気付き始めた時でした。そして、日本のもの、ギリシャ神話や北欧神話のイメージなど、ある種のものに魅了されるようになったのもその頃です。僕の作品にとって魅力的なものが何かということではなく、僕自身が魅力的だと感じるものが何かということを、その時にはっきりと認識し始めたのだと思います。それで意味が通じるかどうかは自信がないけれど・・・

── もちろん通じますよ!振り返ってみて、現在のスタイルに影響を与えたものは何ですか?「これやりたい!」と思ったきっかけを覚えていますか?

正直なところ、それは実際にタトゥー活動を始めたとき、つまりタトゥーアーティストになったときだったと思います。というのも、卒業してからタトゥーの見習いを始めるまでの短い間、フルタイムで働いていました。2人の昔の同級生と一緒に小さなスタジオを持っていて・・・

イラストレーターの限界は無限大です

──  何の仕事をしていましたか?イラストレーターの仕事ですか?

うん、イラストレーターとしてね。というか、そこは仕事をするためのスタジオというわけではなく、プライベートな作業場のようなものでした。同級生の2人は多少成功していました。1人は雑誌社で、もう1人は新聞社で働いていたので、実際にクライアントの仕事がありましたが、僕は暇な時にそこに座って絵を描いているだけでした。楽しいと思うものは何でも描いて、自分のポートフォリオを作っていました。そうしたら、彼女に「インスタグラムに投稿すれば?何が起こるかわからないから、投稿してみて!」と言われて、「わかった、いいよ」と。ドクロやオオカミなど、自分が惹かれるものは全て描いていました。その後、タトゥーアーティストに弟子入りしてからは、タトゥーの世界で起こっていること、そして個人的なスタイルについて、より広い視野で考えるようになりました。以前のタトゥーアーティストというのは、様々なスタイルをまんべんなく使っていましたが、今のタトゥーアーティストはみんな、自分のスタイルというのを確立しています。そこは「最近のタトゥーアーティストのみんなは独自のスタイルを持っていて、僕を僕たらしめているものは何だろう?」と考えるようになったんです。そして、他のタトゥーアーティストにも目を向けるようになりました。例えば、フレダオ・オリヴェイラ(@fredao_oliveira)というブラジルの方に。彼の作品を見て、真似するのではなく、彼のスタイルは何だろう、何を使っているのだろうと考えるようになったんです。彼はとても暗い作品を作り、目のない動物を描いています。そこにはかっこいい要素があると思いました。ポートレートも多いですね。これは僕がプライベートで描いているものにとても似ていると思いました。スタイルはそんなに似ていませんが、題材が似ているというか。その頃から、タトゥーアーティストとしての自分のスタイルが確立されていきました。もちろん、皮膚と紙はテクニックは大きく異なりますが、「自分の絵のスタイルはこれだから、これをどうやってタトゥーのスタイルに落とし込んでいくか」と考えたのはその時でした。それが、特に弟子時代に、本当に成長し始めました。

──  タトゥー活動に進んだ理由は何だったのでしょうか? イラストレーターの誰もがこの方向に行くわけではありませんが、タトゥーにはどのような興味があったのでしょうか?

正直に言うと、個人的な興味ではありませんでした。もちろん、タトゥーというライフスタイルには興味がありましたし、当時は自分でもタトゥーを入れていましたが、何かを追求すべきだとまでは考えていませんでした。それを後押ししてくれたのが、彼女だったんです。特に彼女は「あなたの作品はタトゥーに向いているかもしれないね」と言ってくれたので、「わからないけど、そうかもね」と思ったんです。そこから彼女が私をその方向に後押ししてくれたんです。彼女と友人たちは、僕がタトゥーを始められるようにと、2台の安いマシンと手袋、針が入ったタトゥー・スタート・セットをくれました。もちろん、それはとても嬉しかったですが、そのセットを触るのがとても怖かったです。何がどのように機能するのかわからなかったので……一度だけまとめて、それから機械を起動しましたが、「いや、これを触ってはいけない!」と怖くなりました。タトゥーを始めるというアイデアは気に入っていたのですが、いきなり誰かにタトゥーを刺せる状態にはならないと思っていました。それから間もなくして、BlackBear Inkのオーナーの一人であるハンネ(@hannesmit)と知り合ったんです。二人とも共通の友人のためにモデルをしていたのですが、それがとても面白くて、でもちょっと不思議な感じで(笑)…。お互いの作品をチェックして、そしてそれから間もなく、ハンネからメッセージが来たんです。「ねえ、タトゥーの弟子を探しているんだけど、あなたの作品を思い出してとても気に入ったから、私たちのところに来て話をしない?」と。それで、すぐ彼女にメッセージしたんです。「君のおかげかわからないけど、これは現実になりはじめてるよ」と。「あなたが僕に勧めてくれている道が実際に今できていってると思うんだ!」。そして、ハンネのところに行き始めてからそこに行くのをやめませんでした。来て、そのままそこに留まってしまったっていうか。

──  そこから離れなかったのですね。

そう、一度も離れなかった。

──  最初の苦労は何だったのでしょうか?タトゥーセットを触るのが怖いとおっしゃっていましたが、実際に人に彫ってみてどうでしたか?さらに怖かったでしょうね。

そう….そうなんです。僕は昔から自意識過剰で、特に仕事に関してはとても不安になりますから、自分の作品が誰かの肌に彫られるという事実は、恐ろしいことでした。誰かを傷つけて、その人の肌に自分の絵を載せなければならないというのは、「ああ、僕にできるのだろうか」という感じでした。でも、ケビン(@broke.kek)とハンネは、特に最初の頃は、僕をサポートをし、仕事のプロセスに慣れるようにしてくれたのです。彼らは多くの知識を与えてくれ、僕がまだ皮膚を彫り始める前に、技術の全てを教えてくれました。そして、ある日、自分では準備ができていないと思っていたのに、ケビンが「そういえば、友達や家族に頼んでタトゥーを彫ってもらってもいいよ」と言ったので、「ああ、もう始まっているんだ、今まさに始まっているんだ」と思いました。それが、実際に誰かにタトゥーを入れるという境界線を乗り越えるための、最初の葛藤でした。そして、最初のタトゥーは、今では大親友となった男性に入れたものでした。彼もタトゥーを入れていなかったので、お互いに初めての経験でした(笑)。お互いに緊張していましたが、「よし、やってみよう」という感じでした。

その後、5回か10回くらいタトゥーを入れているうちに、仕事のプロセスをより深く理解できるようになりました。人を傷つけることになっても、頑張ったら良い結果が出るからね。それに加えて、最も苦労したのは、紙の上のものと肌の上のものとの間で、構図のバランスを取ることでした。なぜなら、イラストレーターには(タトゥーアーティストと違って)限界はないからです。紙やキャンバスの大きさに応じて、好きな方向に描くことができます。でもタトゥーの場合は、腕や脚、背中や首など、体の一部を対象としています。平面ではなく体の上できれいに見える構成にするのは僕にとっては非常に難しかったです。そして、最後に難しかったのは、コントラストの仕組みを学ぶことでした。なぜなら、紙の上でのコントラストや、ただ絵を描いているときは、色が変わったりしません。しかし、タトゥーに関しては、インクは体の中で少しずつ流れていきます。なぜなら、体は生き物であり、皮膚も生きていて、動いていて、年をとっていくからです。ですから、タトゥーを扱う際には、そういったことを理解することが求められます。また、初期の頃は、タトゥーセッションで作ったコントラストが、5年、10年、15年経ってもそのままであるとは限らないことを理解していませんでした。ですから、コントラストが非常に大きな要素であることを学ぶ必要がありました。また、オープンスペースや読みやすさなども維持する必要があります。これらのことは、今も苦労しているわけではありませんが、心に留めておいていることです。学ぶことをやめたくないという意味で、常に進化し続けることを心がけています。ただ、学ぶことを止めたくないという気持ちで進化し続けています。クオリティを高めることについて、タトゥーが何年経っていても、昨日彫られたように見えるようにすること。そうですね。。。そんな風になるまでいかないと思いますが、楽しみではありますね。

── タトゥー業界では、「タトゥーアーティスト」と 「刺青師」という言葉があるようですね。これらの言葉から違いを出して、自分にどの呼称が当てはまると思いますか?刺青師、それともタトゥーアーティストですか? 両方ですか?

正直なところ、「アーティスト」という言葉があまり好きではありません。一方、「刺青師」というのは、どちらかというと仕事の内容に近いかもしれません。「グラフィックデザイナーです」、「イラストレーターです」と言っているのと同じように。そういう意味では、「刺青師」のほうがふさわしいかもしれません。しかし、それでは「ただタトゥーを彫るだけだ」という印象を与えてしまいますし、自分の仕事を誰かに説明するときに、何でも彫るただの–もちろんネガティブな意味ではなく–何でも彫る「ただの」刺青師だという印象を与えたくありませんよね。そういう意味では、「タトゥーアーティスト」のほうがふさわしいかもしれませんね。でも一方で、自分を偉そうとしているようにも聞こえます。だって、すごく優秀なウェブデザイナーが「ウェブアーティストです」と言うのもおかしいでしょう。だから、自分自身に与える言葉としては、とても奇妙なものなんです。ほとんどの場合、自分は何者かと聞かれたら、「タトゥーアーティストでもあるイラストレーター」とか「タトゥーアーティスト」と答えていますが、「タトゥーアーティスト」という肩書きに固執して、それが自分自身であるかのようには考えていません。なぜなら、その「アーティスト」という部分があまり好きではないからです。

この職業の一番の喜びは、鏡を見て自分のタトゥーを見たときのお客さんの笑顔です

── 確かに、とても納得できます。そういえば、今はタトゥーがメインの仕事ですが、仕事以外にイラストを描いたりする時間はありますか?それは自分にとってまだ重要なことですか?それとも自分自身をクリエイティブに表現するにはタトゥーだけで十分だと感じているのでしょうか?

今でも自分の中では、絵を描くことはとても重要なことです。でも、あなたがおっしゃったように、自分のために絵を描いたり、好きな絵を描いたりする時間がなくなってきています。本当はもっと描きたいのですが、そのための時間をもっと作らなければならないのかもしれませんね。ですが、お客さんのために絵を描くことが負担になっている、つまりクリエイティブなアウトプットができなくなっているという感覚はありませんよ。お客さんのために絵を描くことが、自分の創作意欲を削ぐようなことはありません。それは、より良いアーティストになるための原動力にもなっています。でも、誰かのために何かをしなければならないという制約や義務がなく、ただクリエイティブになれる時間がないのは寂しいですね。なぜなら、タトゥーアーティストは、全てをお客さんの理想によって考えなければならないからです。この職業の一番の喜びは、鏡で自分のタトゥーを見たときのお客さんの笑顔です。本当に心を温めてくれます。それが、この仕事をしている理由のひとつです。しかし一方で、この仕事をしている最大の理由は、創造すること、描くことです。自分がやりたいことをして、自分以外の誰かから気に入られるかどうかを気にしなくていい。時にはそれが恋しくなることもありますが、だからこそ、仕事に関しては、創造性を発揮することができます。

── 素晴らしいですね。また、自分の作品全体を見たとき、最もインスピレーションを受けている人もしくは物は何だと思いますか。

うーん、インスピレーションを与えてくれるタトゥーアーティストやイラストレーターは何人かいると思います。全員の名前をすべて覚えているわけではありません。ただ、人ではなく、その人の作品全般や、彼らのクリエイティブな作品に魅了されます。そうするように意識しています。例えば、PinterestやInstagramで、他人の作品を見て、それを保存しておく、ということなら1時間でも続けられます。時間があるときやインスピレーションを得たいとき、それらの作品をチェックするのです。誰の作品なのか、どんなスタイルなのか覚えているわけでもなく、ただイメージが好きだったり、流れ方や見え方、コントラストなどが好きだったりするんです。しかし、本当にインスピレーションを受けるものは、ほとんどが神話の中のものなんです。日本の神話や日本の文化など、ファンタジーも好きで、そういうものになると僕は完全なオタクです。ダンジョン&ドラゴン、マンガ、アニメ、映画、コミック等。これらはすべて、インスピレーションの大きな源であり、できる限りたくさんのものに目を通すようにしています。

── そういえば、日本に興味を持っているそうですが、何がきっかけで日本に興味を持つようになりましたか?

日本の文化に?

── そうですね、日本や日本の文化など。

どうだろう、いい質問ですね。幼い頃だったと思います。父が昔、空手の達人だったので、「お前もやってみたらどうだ」と言われて空手を始めたのがきっかけです。幼かったので、そのスポーツが何であるか、どの国のスポーツなのかなどの知識は全くなく、ただ好きでやっていただけです。大人になってからは、空手が日本から来たものだと理解し、日本のことを少しずつ学ぶようになり、「いいな」と思っていて、アニメや漫画には「ああ、これはいい!」と思いました。そして、言葉の響きが好きで、日本のことをもっと知りたいと思うようになり、とても魅力的なものだと感じました。そして、その魅力は様々な観点から増していきました。例えば、空手、アニメ、漫画、食べ物などです。そして、日本について初めて買った本のひとつに、「武士道」について書かれたものがありましたが、そこに書いてあった規律や原則が大好きでした。本当に魅了されました。必ずしも厳格ではありませんが、強い原則を持ち、名誉の規範の中で生きている国だという事実に、とても惹かれました。実際に日本を訪れたときに、すべてが確信に変わりました。それはまさに想像していた通りでした。確かに多少のカルチャーショックはありましたが、良い意味で、すべてが構造化されていて、人々は親切で謙虚で、ずっと考えていたことが本当に証明されたのです。

── そして、作品を見ると、時々、日本的なイメージが出てくることがあります。日本的なイメージを含んだ絵はどんなものが好きですか?そこにはどのようなインスピレーションがあるのでしょうか?

僕が日本の古典的なタトゥーを見るときというのは、インスピレーションを得るためにそれらのイメージをよく見ているように思います。特に、日本の龍のようなものを実際に描かなければならないときには、日本の龍を見ることが多いですね。一般的なドラゴンや他のタトゥーアーティストが描くドラゴンではなく、実際に日本の彫り師がどのように龍を描くかを調べています。これは、本当に好きなことなのです。日本の龍や羽二重のお面など、ちょっとした民話や神話の雰囲気を持つものすべてです。それが本当に好きなんです。アムステルダム出身の親友、メサ(@meesttr)僕が日本の古典的なタトゥーを見るときというのは、インスピレーションを得るためにそれらのイメージをよく見ているように思います。特に、日本の龍のようなものを実際に描かなければならないときには、日本の龍を見ることが多いですね。一般的なドラゴンや他のタトゥーアーティストが描くドラゴンではなく、実際に日本の彫り師がどのように龍を描くかを調べています。これは、本当に好きなことなのです。日本の龍や羽二重のお面など、ちょっとした民話や神話の雰囲気を持つものすべてです。それが本当に好きなんです。アムステルダム出身の親友、メサ(@meesttr)も日本風のタトゥーアーティストですが、どちらかというとブラックワーク的な部分が強いですね。彼のタトゥーは日本の古典的な雰囲気を大切にしていますが、必ずしも明るい色や太いアウトラインではなく、ブラックワークのような方法でやっています。彼は時々、「この作品を見てみて」とか「これを見れば日本のタトゥーの仕組みがわかるよ」とか「この人の作品はかっこいいよ」などと教えてくれて、僕は「そうだね、かっこいいよね」と言って、そこからインスピレーションを得ています。

── いいですね!すでに少しお話されていますが、一番好きな絵の具は何ですか?

おお、大体インクですね…東インドのインクとか。昔はインクがお気に入りでしたが、今はほとんど使っていません。でもまた手にしたらすぐに好きになってしまうと思いますよ。最近は絵を描くのに専らiPadを使っているんです。基本的には機能性が高いので、特にクライアントワークには最適です。必要に応じて、簡単に素早く何かを作ったり、やり直したり、変更を加えたりすることができます。でも、必ずしも好きなタイプのメディアではありません。なぜなら、すべてがデジタルで、実際の感覚がないからです。もし時間があったら、もしくは、時間を作ることができたら、とにかく紙とインクを使うんです。

── ちなみに、東インドのインクはどこで購入しますか?これからやってみようと思っている読者に、お勧めの商品はありますか?

ほとんどの場合、地元の画材店で購入しています。そこには、とても小さな東インドのインク瓶があって、いつもそれを使っていました。グレイウォッシュを使いたいときは、水を数カップ用意して、その中に異なる量のインクを入れて、グレーの濃さの異なる水でカップを満たしていました。これはタトゥーのクレイウォッシュの仕組みと同じです。いつも地元で購入していました。品質についてはあまり考えていませんでした。目的にかなっているかどうかだけに拘っていました。

── 多くの人は新しいことに挑戦するのが好きだと思いますし、私も聞いたことのない道具なので、とても興味深いです、ありがとうございます。

ちなみに、普段、創作活動はどのようなものですか?自分のために絵を描くのか、クライアントのために絵を描くのか、なんでもいいですが、どのようにして始まるのでしょうか?アイデアはどのようにして生まれますか?特定の環境など、創造性を発揮するために必要なものはありますか?

環境は必ずしも重要ではありません。多くのアーティストがクリエイティブな空間を必要としていることは知っています。それは実際の空間であったり、お気に入りの飲み物や音楽、テーブルなどであったりします。でも、僕の場合は普段そんなことは必要だとは思いません。ただ、アーティスト・ブロックや、やるべきことに集中できないときには必要かもしれません。その時は、創造的な思考が刺激され、気が散らないように自分を調えるようにしています。でも、ほとんどの場合は、誰もがそうするように、真っ白なキャンバスから始めます。また、クライアントの仕事に関しては、クライアントの情報にざっと目を通し、与えられた情報の量に応じて、それを検討します。蛇や狼、鹿などのイメージを求めている場合は、まずは送られてきたイメージを見ます。1つや2つのイメージを送ってくる人もいますが、必ずしもそのイメージに固執しないといけないわけではなく、インスピレーションに使うものです。でも10~20枚の画像が入ったフォルダや、パワーポイントのようなものを丸ごと送ってくるお客様もいます。「これが私のアイデアで、これが私のインスピレーションのすべてです」と。僕はどちらでも構いません。

──  どちらの方が好きですか?

特に好みはないと思いますが、少ない枚数の方が仕事がしやすいと思います。なぜなら、必ずしも一定の方向性に縛られないからです。お客さんから送られてくるたくさんのイメージはその1つ1つの構図やスタイルが似ていることが多いです…それで「ああ、これは彼らが本当に求めているものなんだな」ということがよくわかります。一方、1枚や2枚、3枚の画像しか送ってこないお客さんの場合は、「これは彼らの基本的なアイデアだけど、自分なりに工夫してみる」という感じになります。そのほうが、自由度が高いというか、自由な感じがして好きなんですよね。そして、彼らのアイデアがわかってきたら、スケッチをします。時には、5分で「ああ!これだ!」と思うこともありますが、2時間くらいかかることもあります。「いや、これはしっくりこない」「いや、流れがおかしい」と言いながら、ひたすらスケッチします。そこから先は、スケッチとデザインの修正を繰り返しながら、最終的に完成させるというのがごく普通の流れです。自分の作品を描くときのプロセスですが、例えばフラッシュのように自分のために絵を描くときは、ほとんどの場合、時間によってコーヒーか、お茶を飲みながら、まずインスピレーションのフォルダをすべて見て回ります。何かを探しているわけではなく、ただ見ているだけなのですが、「ああ、クリエイティブな気分が高まってきた」というような、ある意味ではチクチクするような感覚を得て、それから仕事を始めるのです。ほとんどの場合、目標に向かって作業をしているわけではなく、ただ抽象的な形を作っているだけなのですが、その混沌の中から何か探し、そして向かうべき方向が見えてくることがあります。プライベートで描く時は、目標がなく、ある意味で自由かもしれません。そして、「これでいこう」と思える具体的なイメージが出てくるまで、その部分をすべて作り直します。というのも、勤めているタトゥースタジオが企画するフラッシュの日は、特に誰かのための慈善活動の場合、コンセプトに基づいて行われることがあるからです。そして、そのコンセプトについて「よし、これが今回のフラッシュデイのコンセプトだ、このコンセプトをどうやって自分の絵に使おうか?」と考えます。そしてその時、絵を描くことより、まずたくさん考えるのです。描きたいもののイメージを思い浮かべてみるんです。それを全部書き出して、そのアイデアに基づいてスケッチを始めるんです。時には、アイデアをかき消さなければならないこともありますし、全く別のところから新しいアイデアを得ることもあります。そして、5〜8回のフラッシュができるまで、すべてのステップを繰り返します。

── 1つの作品を仕上げるのに、通常どれくらいの時間がかかるのでしょうか?

走り書きをしたりなど、なんでもいいです。ひたすらやり続けることです。

アイデアの複雑さにもよりますが、スケッチとデザインの作成合わせて2時間で終わることもありますが、6時間もかかることもあります。本当にその日の気分とアイデア次第です。アイデアが簡単には思い浮かばない日もあります。面白いことに、デザインやドローイングにはタトゥーを彫るよりも時間がかかることがあるんです。デザインができたら、それをコピー&ペーストするだけですからね。もちろん、より可愛くしながら。デザイン画の方がタトゥーを彫るよりも時間がかかることはよくあります。もちろん背中のような大きな体の部分の場合は別ですよね。それは、デザインを4〜5倍に拡大したものですから。

── それは確かに時間かかりそうです。

 かなりの時間がかかりますね。

── 芸術家のスランプの話が出ましたが、アーティストなら誰でも経験する問題だと思います。どのように対処していますか?これから始めようとしている方へのアドバイスや、スランプへの対処法を教えてください。

アートアカデミーに通っていた頃、このような時期があったことを覚えています。特にプレッシャーを感じることが多かったです。例えば、先生から「研究したいテーマに関する40枚のスケッチを提出して」と言われて、「うわ、40枚か。どう始めればいいのか全くわからない」となってしまいます。その時によくスランプを経験しました。若い頃は、スランプがあって、何もできないという事実に屈していました。最近では、アイデアなどが出てこない、行き詰まってしまう瞬間があることに気づいたら、作り続けること、何かをし続けることが一番の対処法だと思っています。たとえ描いたものが想像と違っていても。例えば、お客さんのために龍の絵を描かなければならないとき、数枚スケッチをしていても何も出てこない、インスピレーションが湧かない、流れがない、といったことになった時。何も出てこないし、何をやってもダメだから、スランプに陥っていることに気づくんです。そういう時もやり抜いてみるんです。そして、何かが表れます。そしてほんのわずかに、またインスピレーションが湧いてきたり、頑張ろうという気持ちになったりするんです。それが僕の方法です。プロジェクトベースのデザインの場合はその方法でまだスランプが消えないのであれば、全く他の絵を描くことから始めてみてください。走り書きをしたりなど、なんでもいいです。ひたすらやり続けることです。スランプになってしまって、何もできないことを受け入れてしまうと、何も変わりません。とにかく頑張るしかないです。難しいことだとわかりますが、どうすればいいのかわからない時は、とにかく続けることが大事です。たとえ5分でも10分でも、とにかくやり遂げることです。

──  すごいですね。クリエイティブな仕事をしていると、スランプを経験して「もうわからないから、やめる」と思っても、モチベーションやインスピレーションが戻ってくるまでどれくらいかかるかわからないので、危険ですよね。特にタトゥーアーティストの様に、予約を取っているお客さんと仕事をしていますから。ひらめきを待っているだけでは…別の対処法があるといいですね。とてもいいアドバイスです。

その通りです。これは本当に重要なことです。なぜなら、確かに人はスランプを経験したらやっていることを途中でやめて、スランプが終わるまで待つ傾向があるからです。でも、そのスランプは魔法のように止まるわけではありません。気づいたのは、他の人がスランプに陥っているとき、彼らがただ待っているだけで、いつかスランプが終わり、また作業を始めるというパターンがあるということです。でも、スランプがあることに気づいたその瞬間から、そのまま続けたら、もう待つ必要はありません。頑張ればいいのです。もちろん、それが、より大変なんですけどね。時間がかかってイライラするのはわかりますが、ただ待っているよりはずっと楽になると思いますよ。

── 確かにそうですね。いいアドバイスですね。苦労といえば、あなたのクリエイティブな旅で直面した最大の課題は何でしたか?イラストでもタトゥーでも、今までに乗り越えなければならなかった最大の課題は何ですか、それをどうやって乗り越えましたか?

今でも経験している最大の課題は、精神的な健康と、自分自身と制作を向上させる取り組みという意味でのバランスだと思います。というのも、この2つを同じことだと思ってしまっています。自分の技術の向上に取り組んでいれば幸せを感じる。幸せを感じるのは自分の技術の向上に取り組んでいるからです。特に、タトゥーになるとね。ただ、週4、5日はタトゥーを入れて、週1、2日は絵を描いていると、実際の休みが平日の数時間と週末の1日になってしまい、大きな負担になります。特に、疲れを感じている日や、彼女に「最近一緒にいる時間がないから、遊びに行かない?」と言われると、「仕事や制作にこれだけの時間とエネルギーを注いでいるんだから、バランスを取らないといけないな」と思い始めます。特に、プライベートになるとそう思います。少し休んだり、お客さんに「申し訳ありませんが、働きすぎなので、予約を延期をせざるをえない」と言ったりしてもいいのです。というのも、「NO」と言ったり、自分の境界線を見つけたりするのは、僕にとってはとても難しいからです。これが、今も克服しようとしている最大の課題です。

──  そのバランスを保つために何が必要だと思いますか?

周りの人たちだと思います。周りの人は「本当にやりすぎじゃない?ゆっくりしたほうがいいよ」と言ってくれます。ただ、正直、ほとんどの場合、耳を傾けず、ただ「うんうん」と言って、次の日にはいつものように頑張っているだけです(笑)。しかし、特に彼女が「ねえ、今日は何もしない方がいいんじゃない?誰にも会わないで、二人だけでゆっくりして、夕食か何かに出かけましょう、二人だけで」と言ってくれるときには、実際に自分に安らぎが訪れて、これが必要だと感じることができます。そういう瞬間があります。そして、特に周りの人たちが、ゆっくりさせてくれます。そのハードルを乗り越えるための最大の助けとなっています。

── クリエイティブな仕事をしている人は、インポスター症候群に陥りやすいと思います。「今やっていることはまだ足りない、もっと頑張らないと」と感じて、創造性の霧の中にはまりがちだと思います。成功するまで、自分に休む許可を与えられない人が多いと思います。

その通りです。インポスター症候群の症状は人それぞれですが、僕はかなりひどい傾向にあります。彼女や職場の同僚に、「1日仕事を減らして、図面やデザインを描く時間を1日増やしたほうがいいんじゃない?そうすれば、週末に1日余計に仕事ができるようになり、時間に余裕ができて、頭の中にもゆとりができ、休息もとれるようになるよ」とよく言われます。その通りだとは思うのですが、「3、4日しか働いていないのだから、十分ではない。週に3、4日働くだけで本当に良い生活をしている、ただの怠け者だと言われたらどうしよう」と考えてしまいます(苦笑)。インポスター症候群に陥っていると思うんです。「自分の力が足りない、もっと頑張らないといけない、一生懸命になることが好きなんだ」ということを人に見せないといけないと考えてしまいます。そうして、自分のために時間を使うことが良いことだということをすっかり忘れてしまうのです。そのことを忘れがちなんです。間違いなく。

── これは誰もが、クリエイティブな仕事をしている人はもちろん、他の業界の人でも経験することだと思います。

そうですね、本当に。

── では、もっとポジティブな話題に移りましょう。今までの最大の功績は何だと思いますか?でも、インポスター症候群のことは忘れてください(笑)

ははは。最大の功績…いい質問ですね…難しい!今に至るまでの最大の功績は、弟子であることを終わって、アーティストになったことだと思います。弟子の頃は、肩書きなどを気にしていませんでした。ただ、自分の仕事をできるだけうまくこなせるかどうかを心配していました。そしてある日、Black Bear Inkのオーナーのケビンとハンネ、そして僕の彼女が、Black Bearで驚かせてくれました。誘われて行ってみたら、突然友達がみんな集まっていました。「もう弟子の肩書きは捨ててもいいよ。君は正式なアーティストだ」と言われた瞬間でした。奇妙なことに、アートアカデミーの卒業証書を受け取るよりも、そのことの方がずっと感動的でした。アートアカデミーは4年間のハードワークで、早く終わってほしいと思っていたからかもしれません。弟子からアーティストになったとき、自分が認められたと感じました。「君の作品はすばらしい。これがあなたの新しい肩書きです」というように。その時に初めて「すごいな、本当にできたんだな」と思いました(笑)。それは、今までの最大の功績のひとつだと思いますよ。

──  素晴らしいことですね!ちなみに、弟子入りしていた頃からフォローしていて、その時はまだ弟子入り中だと知らなかったので、弟子入りを終えてアーティストになったことを投稿したときをまだ覚えていますよ。そんなにかっこいいものを描いているのに、まだ弟子だったの?とびっくりしました(笑)

そう、当時は多くの人が知らなかったのです。というのも、先ほど言ったように、あまり気にしていませんでした。自分の仕事に集中しようとしていたし、自分がまだ弟子だということや、まだアーティストではないことなど、どうでもいいことだったのです。自分の作品が良いものであれば、それだけで幸せでした。そして、自分の作品で人々が喜んでくれれば、それが自分にとってのすべてなのです。でもね、実際にアーティストになってみると、不思議なことに、自分が思っていたよりもずっと大きな意味を持っていることに気がついたんです。

──  周りに仲間がいて、活動を応援してくれる人たちがいることで、そういう気持ちになれたのかもしれません。

まさに、それが大きな理由だったと思います。周りの人たちが喜んでくれたこと。心が温かくなりますよね。実際、感動しましたよ。みんなが私のために来てくれたことは不思議な感じがして、その時はとても嬉しかったです。達成感がありましたね。

── いいですね。また、将来のことを考えたとき、達成したいことはありますか?目標はありますか?

どうだろう。あまり先のことは考えず、少しずつでも前進していきたいと思っています。仕事では、もっと旅行をしたいですね。それが夢で、実現したいことの一つです。アーティストとしての自分のためというわけではなく、世界中の他のアーティストと知り合って、彼らがどのように活動しているかを学ぶためです。学ぶことをやめず、自分の仕事を向上させ続けたいので、他の場所、例えば日本に行って、日本のタトゥーの真のマスターと知り合うことができれば最高です。ベルリンやニューヨークやロンドンにも行ってみたいですね。タトゥー業界の偉大な人たちと知り合って、彼らがどのように仕事をしているのか見たりとか。将来的には、そういうことをやってみたいですね。

── とても良い目的だと思います!きっと実現できると思いますよ。

ははは、そうだといいですね。

── きっとそうでしょうね。もし今までの活動をやり直せるとしたら、すべてを同じようにしますか、何か違うことをすると思いますか?

もし、やり直せるとしたら?もしやり直せるとしたら、今知っていることをすべて知った上で、過去の弟子時代に犯した失敗を防ごうとするでしょうね。バカげていると思われるかもしれませんが、どうすれば失敗を防げるかを知っているのなら、失敗を防ごうとするはずです。でも一方で自分のしたことに後悔はしていません。僕が施したいくつかのタトゥーや選択に関しての後悔はありますが、そのことも勉強になったし、今の自分になるために経験しなければならなかったことです。だから、ある意味、とても重要なことだったんだと思います。だから、やり直せるとしてもほとんどのことを同じようにやると思います。

──  素晴らしい。それが一番の答えかもしれませんね。自分の過去に後悔していないこと。また、初心者へのアドバイスはありますか?イラストレーターにしても、タトゥアーティストにしても、始めたときに誰かに言われたかったアドバイスはありますか?

練習を続けてください(笑)。休息を犠牲にすることなく、何時間でも自分の技術に取り組むこと。若い頃や駆け出しの頃は、できるだけ多くのことをやろうとするあまり、自分自身の精神状態の面でいつも押しつぶされてしまうことがほとんどでした。だから、初心者に贈る最大のアドバイスは、できる限り一生懸命に練習すること、そして、自分はまだ人間であるという事実を忘れないことです。

 それは本当に本当に重要なことです、ありがとうございます。最後にお聞きしたいのは、今していることの理由は何ですか?

一番難しい質問は最後に(笑)

──  うん(笑)

一番大きな理由は、幸せになれるからだと思います。というのも、コロナ禍でのロックダウンでタトゥーを入れられなくなったこと、そしていつ再開できるかもわからないという事実が、自分をとても不幸にしていて、ほとんど鬱状態になっていることに気づき始めたからです。だから、自分の仕事をすること、自分の技術を発揮することこそが、絶対的な喜びを与えてくれると理解し始めたんです。先ほども言ったように、お客さんが、出来上がったタトゥーを見て、笑顔になってくれるのを見ると…それが、この仕事をする理由のひとつです。それができなくなったとき、ただ心が痛みました。ある意味、今までで一番大きなスランプに陥りました。生き続けるために必要なことだと思うから、タトゥーをやっているんです。とても大げさに聞こえますが、それが原動力になっているので、「理由」とかではなく、「生きるためにやらなければならない」なのです。

── すごいですね。この答え、めっちゃ好きです。本当にありがとうございます!タトゥーアーティストであろうと、他の種類のアーティストであろうと、誰でも、これから始める人には、本当にインスピレーションになると思います。お時間をいただき、本当にありがとうございました。

こちらこそ、このような素晴らしい機会をいただき、ありがとうございました。素晴らしい時間を過ごすことができました。少しでもお役に立てれば幸いです。

── 必ず役に立ちますよ! 本当にありがとうございました。


文:マズリナ・オルガ
写真:Mitchell Keanu

Mitchell Keanuの詳細や予約は、以下のサイトをご覧ください。
https://blackbear.ink/en/artist/keanu/
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