石山明:光で瞬間を刻む

ライブやクラブで、照明によって会場の空気が一変し、強く印象に残った経験はありませんか?
今回は、そういった特別な経験を作り出してくれる人として石山明さんを紹介します。石山さんは、日本武道館のような大規模会場でのライブから、小規模で濃密なナイトクラブまで、幅広い現場で活躍する照明オペレーター、デザイナー、ディレクター、そしてテクニシャンですが、彼から照明という手段で空間を作り上げる仕事の魅力を聞き、その裏側に迫りました。仕事に対するよくある誤解やこの仕事に求められるスキル、そして一つひとつのイベントの裏にどれほどの思考やコンセプトが込められているのかについて掘り下げていきます。

— この度はインタビューの機会をいただき、ありがとうございます!
まず最初に、お仕事以外で、石山さんご自身について自己紹介していただけますでしょうか?

ナイトクラブやライブ、イベントなどで照明をしている石山 明と申します。現在42歳、川崎市出身です。仕事以外では、高校の頃にやっていたテニスを7年ほど前から再開、週1~2回ほどプレイし、定期的に試合などにも出ています。忙しい時は全然プレイ出来ていませんが…。また、仕事の影響でDJも趣味として続けています。たまにお呼ばれして、会場にいる方のお耳を汚すことに従事しています。主にHouse、Deep House、Techno、Drum and Bass辺りをプレイし、非常に多くのシュプレヒコールを頂けております。

武道館にてオペレート中

— 照明のお仕事に興味を持たれたきっかけは何でしたしょうか?そこから実際に照明オペレーターになるまでのプロセスについて教えてください。

以前勤めていたCMやMVなどの映像業界の撮影スタジオに在籍している頃、ファッションショーに興味がありショーに携われる中で自分のスキルを生かした物はないか?と考えていたところ、スタジオ業務で兼任していた照明技術なら少し関われるかなと思い、ファッションショーに強い照明の会社に就職した事がきっかけです。今ならわかりますが、撮影スタジオの照明技術とは全く違った業界でしたが…。

その後、コレクションやイベントなどの仕事をしていた際、ストリート系のアパレルブランドさんのイベントの中で「DJに合わせて好きに動かしていいよ」と言われ、4台だけしかなかったムービングライト(ビームや模様、色など動く照明)をオペレートする機会があったのがオペレーターとしてのきっかけですね。当時はムービングを動かす事自体新鮮で、ガンダムみたいなロボットを操縦しているような感覚で非常に面白かったのを覚えています。

また、自分自身もクラブやダンスミュージックが好きだったのでそのまま今のクラブ業界、ライブ業界にフェードチェンジしていき今に至ります。

— 照明オペレーター・テクニシャン・デザイナー・ディレクターの役割の違いについて、少し具体的に教えていただけますでしょうか?それぞれのポジションで求められるスキルについてもぜひ伺いたいです。

映像業界とは違う、イベントや舞台に限った「照明さん」と一言でいってもその内容は意外にも結構細かく分かれています。特に大きな現場ですとその細分化はさらに細かくなっていき、完全に分業制ですね。

照明オペレーターは、本番時の照明制御を実際に行う人です。照明機材ひとつひとつを設定していく照明プログラマーとしても兼任することが多いです。ライブやイベントなど、本番までにプログラムしたものをコントロールするのがメインとなり、照明卓に何時間も張り付いている人ですね(笑)。本番時のお客さんや演者、場の空気に沿った明るさや色、模様、動きのコントロールスキルやその場でプログラムを修正する技術が必要になります。

照明デザイナーは、案件内容に沿って照明機材の選定、配置、設置方法などを担当します。クライアントの希望、照明予算、会場の都合などを考慮し、デザインしていきます。位置、吊り方などの設置方法は物凄い重要ですが、音響、映像、特効、美術など他セクションとの事も考慮しないといけない為、時間がかかる反面、こちらの照明デザインが決まらないと照明部としては何も動けないので迅速に決めていかないといけない部門でもあります。また、製図ソフトであるベクターワークスや3Dビジュアライザーなどの知識も必要となるので、PCと睨めっこする時間が非常に多くなってきますね。

照明テクニシャンは、照明エンジニア、ネットワークシステムエンジニア、ムービングなどのフィクスチャーエンジニアの総称です。仕込みプランの作成、デザイナー/プログラマーと連携を取り、パッチ、ネットワーク設定などの決定、機材の手配、当日現場での照明仕込み、各セクションとの段取り、管理、撤収などを担当します。現場が円滑に進行するうえで最も重要なポジションとなり、豊富な経験、知識を要します。

と、大まかなセクションについてざっくりと説明しましたが、小中規模の現場では基本これらを一人で全て兼任することが多いです。照明技術の発展や新しい機材など日々更新されていくので勉強勉強の毎日です…。

プログラミング作業中

— ライブ・イベントの照明を考える際、最初に意識することは何ですか?また、照明を考える前に、アーティストやスタッフからどのような情報が必要でしょうか?

まずアーティスト、クライアントの趣旨、全体的な雰囲気を考え始めます。このアーティストはド派手なのか?弾き語りがメインのエモーショナルな感じなのか?アイドルのような華やかな派手なのか?男っぽい派手なのか?未来感ある無機質な派手なのか?泣いちゃう系のエモさなのか?琴線に触れるような繊細な雰囲気なのか?などの「大体こういう感じ」「これはNG」という大枠を初めに決めていき、それに沿ったデザインを考えていって、他セクションとの絡み、会場での可不可を考慮して精査していく感じですね。

あまり時間もなく、細かい希望がない場合などは「これはNG」というざっくりとした情報だけ貰えれば円滑に進行出来ると思います。

— ご依頼から当日のライブ・イベントまでのお仕事のプロセスを教えてください。

まずは下見ですね。ライブハウス、ホールなどいつもイベントをやっている会場だけでなく、駅などの公共施設やお寺などイベントに縁がなさそうな場所でやることもあったりするので(笑)。

下見後、概算の予算算出、エンジニアの手配、ミーティング、デザイン/プラン決定、機材手配、プログラミング、本番、といった流れになります。

「ぶっ刺さった!」って感想貰うと、それだけでビールが美味しくなります (笑)

— ライブ・イベント中の照明は、どのくらい事前にプログラミングされていて、どのくらい手動で操作されていますか?

プログラミング(=打ち込みと呼びます)はワンマンライブなどの場合は2週間前くらいから、クラブのライティングに関しても2週間くらい前から3Dビジュアライザーの構築から始めます。本番中はライブイベントに関しては何日間もかけて打ち込みしたものを再生するので、そんなに忙しくないのですが、クラブのオペレートに関してはずっと手を動かしていて、6~8時間くらいオペレートするので終わった後ヘロヘロになりますね…。お客さんの反応見ていると飽きは来ないですが。

— ご自身のアイデアとアーティストのビジョンは、どのようにバランスを取っていますか?

アーティストの意向をなるべく組むようにしています。出来ないではなく、どうすればやれるか?を自分だけではなく色んな方に相談して遂行しようと努めています。また、全体の公演の中、常に60点~70点を叩きつつ、自分の得意なジャンル、音、雰囲気の時に自分の趣味に思いっきり走るって感じのバランスでやっています。自分の好きな感じは一般的には評価されづらいので、たまに「ぶっ刺さった!」って感想貰うとそれだけでビールが美味しくなります (笑)。

さいたまスーパーアリーナプログラム中

— 一般のお客様には気づかれにくいものの実はこだわっているポイントや、もっと気づいて欲しいと思うようなポイントはありますか?

こちら、詳しく説明しますね。
クラブのライティングオペレートに言及しますが、簡潔にいうとフロア全体を

1.「観察」

2.「曖昧(抽象的)」

3.「合わせ(具体的)」

4.「爆発」

の4つのテーマで毎晩こなしています。

1.「観察」は、フロアに来ているお客さんをよく観察することです。友人と談笑している人、下を向いてガンガン踊ってる人、つまらなさそうにスマホ触ってる人などフロアの状況は様々なので、常にフロアが、はたまたBar周りが、はたまたVIP周りがどういう状況なのかを照明ブースから観察し、「今、どこが着火剤として適しているか?」を逃さないようにしています。ですので、構築的にお客さんの反応的に「もうどうにでもしてーーー!」と興奮する状態まで、攻撃的なライティングをわざとしないようにビルドアップしていくようにしています。フロアが「もうどうでにでもして」状態になったら何やっても跳ねます。肩車してるお客さんがいたら勝ちですね (笑)。

2.「曖昧(抽象的)」なのは、お客さんを没入させるために、割と暗めに進行したり、スピード感も抑え、わざとそこまで面白くないライティングをしたりしています。下を向いて踊っているお客さんや、踊り始めのお客さんに対して、ブレイクやあおりなど曲の構成には合わせるけど、そこまで攻撃的なライティングをせずに、いわゆる「SNS映えする照明」「ライティングショー」は排除しています。お客さんの脳内補正で補完してもらう、いわゆる焦らしの時間ですね。

3.「合わせ(具体的)」は、お客さんよりもDJが一段階、二段階ほどギアを上げてきた時に分かりやすく説明する為に、今度は逆にSNS映えするような、またはドライブ感が増すような攻撃的なライティングをしていきます。一度そういった派手で分かりやすいライティングをすると面白い事に、一旦フロアから人がいなくなります。何故かというと皆さんドリンク買いに行くんですよね(笑)。戻ってくるのを多少待ちつつもこちらもギアを上げてオペレートしていくと、Barから見たフロア、フロアに戻ってきた風景が映える照明になっているのでアガりやすく、その頃にはフロアもかなり暖まっているので「4.爆発」に繋がっていく。といった一晩での「大きな波」としてオペレートすることを常に気を付けています。

全体的にパーティの照明なんて冷静に見るもんじゃなく、酔っぱらいながら感じるものなので、それが常にステージを見ているというスタイルのライブ照明との大きな違いかなと思います。

新潟のクラブオペレート中

— 照明オペレーターとしてクラブのイベントに関わるのとともに、実際にDJもやるようになった経験はどうでしたか?

DJさん、演者さんとの交流方法、手段が増えた事が大きいですね。話してる中で思いますが、音楽や機材の話など、演者 <> スタッフとの差異は実はそんなにも無いはずで、お互いの立ち場で抱えてる問題も到達点では大きな違いは無いと感じます。集客問題、DJとしての挙動、ふるまい方、日本のクラブカルチャーに対しての向き合い方などなど。普段仕事だけしているとわからない目線で演者陣とは別で、お客さんとの交流も出てくるので本当に様々な意見があり、色んなインプットが得られやすい事が多いですね。

— DJとしても活動されてみて、照明のお仕事に何か影響や変化はありましたか?

DJさんがプレイしている内容を照明の立場で形にして「見える化」する力は如実に養われてきた気がします。ですが、フロアの熱とDJさんのプレイとの「熱の乖離」もかなり分かる様になってしまったので、僕みたいなDJ < お客さんに比重を置いたオペレートタイプの人間にはいいんだか悪いんだかといったところですが…。

それとは別でプレイ中のミックス技術や、音量調整、コードに対しての意識が増えました。有名じゃなくても上手いDJさんは本当に沢山いまして、周りの空気を読みながらプレイする方が凄く好きになりました。が、矛盾しますが空気を読まないで、ロックスターの様に強制的に導いてくれるDJingも、ご自身の貫く力が見て取れるので好きではあります。

— 照明のお仕事について、誤解されがちなことが何かありますか?

プログラムが簡単だと思われている事と「自動でやってるんでしょ?」って思われることですね。「全部コンピュータでやってるんだから簡単でしょ」とよく言われます。あとこれは照明さんに限った話ではないのですが、仕事でしか聞かない音楽ジャンルの仕事に携わっていたりすると、石山は「そのジャンルが好きだ」と思われることですね (笑)。

武道館にてオペレート中

—「この仕事をやっていてよかった」と感じるのは、どんなときですか?

自分がオペレートするライブやイベントなどは一番いい席で観れる事ですね(笑)。FOH(Front Of House)という音響、照明などのテクニカルがいるブースが会場後方のド真ん中によくあるのですが、ここからの景色は最高です。アーティストがいるステージには遠いのでアーティストの顔を見たい方はもっと前の方に行くべきですが、なんせFOHは音も照明も一番いい場所ですからね。

と、これは先ほどの回答と少し矛盾しますが、音楽の知見の幅が広がる事ですね。一般の方よりも間違いなく音楽には詳しくなれます。以前は聴かなかったジャンルなど全ジャンル好きになりましたね。

あと、週末や祝日などは仕事ですが、平日に遊びに行ける事ですね。どこ行っても比較的空いているので助かります(笑) 。
が、年末年始などは休めないことが多く、今のところ10年以上年末年始に休みだったことないですね…。

— 逆に、今でも忘れられないトラブルや、「これはやばい」と思った経験はありますか? そのとき、どのように対応しましたか?

数えきれないくらいあります…。

大雨の中、設営していた際雨水があまりにも多く機材を壊してしまったことや、真冬の早朝の屋外にて作業中、照明機材を吊る際に手がかじかんで使用するネジ式のハンガーが回らなくなり、たまたま工具も持ってなかったので歯でそのネジを回したり(笑)。

また、ピンスポットを操作している本番中に、急にお腹が痛くなってきたのですがピンスポットの操作を優先させないといけないので、意識が少し遠のきながら大量の汗を流しながらやり、気が付いたら本番が終わっていたって事もありましたね…それ以降、本番前は必ずお手洗いに行くようにしてます…。

ここでは言えないやばいトラブルも多々ありますね。聞きたい方はお会いした際にでも…。

両国国技館にて

お客さんの為に、カルチャーの為に真摯にやっていっています。

— これまでのキャリアの中で最も苦労された時期はいつごろでしたか?それをどのように乗り越えられましたか?

20代全部ですね。覚えも悪く、現場で図面を渡されて説明されても何も分からない状態で日々怒られていました。ですが、ある日シナプスが繋がったかのように説明している事が理解出来るようになり、これがまた自転車と同じで一度出来るようになると、何故かその後もスムーズの出来るようになっていきました。

が、まだまだ失敗も不出来も多々ありますので乗り越えてるかと言われればなんとも言えませんが、お客さんの為に、カルチャーの為に真摯にやっていっています。

BAD BUNNY Spotify Billions Club Liveローカルコーディネート

— 今後、照明を担当してみたいプロジェクト・イベント、またはアーティストはいますか?

アーティストさんは挙げればキリがないですが、切なかったり、暗かったり、綺麗な楽曲など、エモーショナルな感じが自分は得意なのでそういったアーティストさんとやれたらと思っています。どの仕事もそうですがマッチングって非常に大事ですし、運の要素も結構あるのでそういった案件は否応がなしに気合入ります。

— 照明のお仕事を目指している方に、どんなアドバイスを送りたいですか?

照明技術よりも感性や自分の好きを自認して大切に暖めておいてください。いずれ正解不正解が分からないとき、答えは自分の中にあるようになるので。

クラブの照明業界に関して言えば、どんどん遊んでください。僕は今も遊びに行くようにしています。

— 石山さんにとって、自分の目標や夢を実現するために、どんなプロセスとアプローチが必要だと思いますか?

SNSを使った戦略は大事だと思いますが、あまり得意ではないですし、自分の売り込み方などは皆目見当つきません。あと仕事していて思うのは、照明技術よりもコミュニケーションや人脈が大事だと思います。「この人と仕事がしたい」と思ってもらえるように自信と謙虚さとを併せ持てるようになれればと思っています。あと、英語ですね…(笑)。

— 夢といえば、何か今の夢はありますか?

緩やかでもいいので右肩上がりになっていければと思います。技術も何もかも。

テニスでの目標なら沢山あります(笑)。2028年には45歳以上のクラスになるので、そのグレードで区民大会に出る為に週1~2回練習しています。

— 最後の質問になりますが、現在ここまでクリエイティブに活躍されている一番の理由は何だと思いますか?

正直、自分でも何が一番の理由なのか分かりません(笑)。もちろん全ての現場が自分の好きな仕事ばかりではないので、プロとして割り切って向き合う部分もあります。それでも今日まで続けてこられたのは、やはりこの業界が好きだからだと思います。そして、この業界には飽きることがないほど面白い方々で溢れかえっているので、これからもこのエンターテイメント業界の一翼を担い続けられるように、自分自身も楽しみながらいければと思います。


インタビュー・文:マズリナ・オルガ

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