音楽が好きな人にとって、ライブ写真はその瞬間の輝きや熱気を永遠に閉じ込める特別なアートです。そんな世界に魅了され、思い切って安定した会社員生活を手放し、フリーランスのフォトグラファーとして新たな一歩を踏み出した川島彩水さん。映画、アート、さらには福祉関係なども含む様々なジャンルの撮影で培った技術を武器に、ライブ写真の瞬間を捉えることに情熱を注いでいます。
今回のインタビューでは、川島さんがどのようにしてこの道を選んだのか、最高の一枚を撮るために必要なこと、そして彼女の感性に影響を与えたものについてお話を伺いました。音楽と写真が交わるその魅力的な世界を、覗いてみましょう。
ー 本日インタビューの機会をいただきありがとうございます。最初は自己紹介をお願いしてもいいですか?
川島彩水です。フォトグラファーをやっております。インタビューされるのは初めてなので、ちょっと緊張しているんですけども、よろしくお願いいたします(笑)
ー よろしくお願いします!(笑)最初に、フォトグラファーとしてのキャリアはどのように始まりましたか?
本格的に仕事で写真を撮るようになったのは、師匠、加藤甫さんとの出会いが大きなきっかけになります。元々写真業とは関係のない会社に勤めていたのですが、ライブ写真に興味があって、撮りたいことを知人友人に話していたところ、加藤さんをご紹介いただきました。加藤さんは主にアートや、福祉、建築分野で写真を撮られてる方ですが、出会った当時はヴィジュアル系の様々なグループでライブ写真を撮影されていました。
加藤さんは誰に対してもフラットな方で・・・、所謂写真の師弟関係というと、アシスタント時代は写真を撮らせてもらえない、とかよく聞く話ですが、そういった感じではなく最初から「一緒に現場に入って写真を撮ろう!」というスタイルの方でした。そのため、現場に慣れるまでは早い方だったかなと思っています。そして撮り終わった後のフィードバックが毎回熱く、仕事において自分の軸の部分を作っていったところがあります。
途中からライブ写真のお仕事を任せていただくことになり、また、ありがたいことに師匠以外の方からも「写真撮ってよ」と言っていただく機会もありましたので、フリーランスとして独立して写真業を本格的にスタートすることになりました。
ー 子供の時から写真に興味がありましたか?
ちゃんと興味を持ち始めたのは大学から。美術大学出身で、デザイン学科に入ってました。グラフィックデザインの課題を作るにあたって、写真の素材が必要だったので、そこで一眼レフを持つようになりました。大学時代はよく写真を撮っていました。
ー 初めてのライブ撮影の経験は、まだ覚えていますか?
ライブ写真を撮り始めたきっかけを遡ると、大学の卒業制作で。うちの大学は学科に囚われず「何作ってもいいよ」みたいな…自己表現を大事にするような大学でした。なので自分は卒業制作として、思い切って野外ライブイベントを主催して作ったんです(笑)。音楽が大好きで、自分の一部にもなっている音楽を、作品として表現しようと思った時に、ライブイベント、特に野外でやる音楽イベントが、自分と音楽のあり方を表現できると思い企画しました。その主催したイベントでは、私が写真を撮るわけではなく、友達や来てくれた方に写真を撮ってもらっていました。最終的に、本番当日から、準備段階のことを含め、本や冊子という形でまとめたのですが、その中で写真の重要性、ライブ写真の面白さ、記録としての写真の価値を知り、自分でも撮ってみたくなったんです。そこから私のイベントに出演してくれたアーティストのライブ写真を撮らせてもらうようになりました。初めてのライブ撮影は、自分が企画したイベントの出演者のライブの写真、というところから始まった感じです。
ー 好きなことを仕事にできるのは素敵です!ちなみに、ライブパフォーマンス中の暗い環境での撮影はとても難しくプレッシャーがかかると思いますが、ライヴ中の予測不可能な瞬間、例えば照明の変化や観客との兼ね合いにはどのように対処していますか?
どう伝えるかちょっと難しいんですけど、頭ではなく感覚で動いてるところがあって。ライブ写真って場数が大事だと思っているので、とにかく撮って撮りまくること。最初の頃は白飛びしたり、真っ黒な写真が撮れてしまったり、めちゃくちゃ失敗してきました。その悔しい経験が今に繋がっている部分もあります。咄嗟の対応力は直感的なところがあるので、とにかく枚数を切って、いろいろな状況に慣れていくことなのかなと思います。
ー そこは事前に準備できることがありますか?それともその瞬間に対応しないといけないですか?
事前に準備できることといえば、暗所に強く即効性のある機材を揃えておくことですね。ライブでは追いきれない瞬間がたくさんあります。その感覚的な速度についていける、自分に合った機材を持っておくことです。
ー そうですか!
うちの師匠は「どんな形であれ写っていればOK」とよく言ってました。写真は、アングルだったり、光のバランスなど技術面もありますが、どんな形であれその瞬間を写真におさめていることが最も大事であることを教えてくれました。やっぱりライブ写真はものすごくプレッシャーが大きいもので、特に私は緊張に弱い人間なので・・・プレッシャーに打ち勝つためのお守りのような言葉です。
ー 素敵な言葉ですね!ありがとうございます。音楽のファンにとっては、アーティストライブの写真はとっても大切じゃないですか。ライブに行けなかったファンにとっては、ライブにどんなようなだったのか、そのライブの様子を知るきっかけになったり、そして実際に当日行った人にとっては素敵な思い出になると思いますが、ファンからのフィードバックと感想をもらったりしますか?
直接感想をいただく機会はあまりないんですけど、たまにDMなどで感想をいただくことがあって、すごいありがたいです。ただ、アーティストさんのことを考えて、交流することは控えているので、あまり返信はできませんが、ファンの方からの感想はいつもホント嬉しくて、ありがたいなと思って読んでます。
ー 今まで一番印象に残ってる感想とかありますか?
そうですね…印象に残っている感想というと、アーティストの表情の美しさとか、そういうところよりも、空気感を褒めてくれる感想はすごく嬉しいなって思っています。会場全体の空気感や臨場感を大事に撮ってるところがあるので。「これがこのバンドらしさだよね、このバンドの空気そのものだよね」と言ってもらえた時は、すごく嬉しかったです。
ー 逆にアーティストからの感想もらったりしますか?
ヴィジュアル系アーティストの皆さんからは、具体的なフィードバックをもらうことがあります。普段のライブではそこまで写真について意見を出し合うことはあまりないですが、以前ΛrlequiΩのライブツアー写真集を出させていただいた際に、19公演のツアーに帯同し、毎公演ソロカットを1枚、ライブ終わりにそれぞれメンバーと一緒に決める時間を作ってもらいました。一人一人、一緒に写真を見て、「今日はどの写真にする?」と話し合い、セレクトしていました。その中でメンバーの好きな写真や、望んでる画の傾向を知れる機会になりました。ヴィジュアル系バンドは、ブランディングや世界観をすごく大事にされているので、その見せ方のこだわりを直接聞けることはとても勉強になりました。
ー 確かに、特にヴィジュアル系のジャンルは、先におっしゃった通り、バンドのイメージと個性がかなり強いですが、そこは自分のクリエイティブなビジョンとアーティストのパブリックイメージをどのようにバランスを取っていますか?そこは制限を感じることがありますか?
そうですね。当初は表面的な部分、例えばお顔の美しさとライブの臨場感のバランスに制限を感じて悩むこともありましたが、何年も撮らせていただく中で、お顔も良いし臨場感もある、すべてが満点のようなタイミングはライブ中に絶対にある、と思うようになりました。毎回その究極の1枚を目指して撮るようになってからは、制限を感じることは少なくなりました。ただ、その一枚を撮るのはなかなか難しく、毎度落ち込んだり、反省しながらやってます。また、私は自分のビジョンを相手に持っていくっていうよりかは、相手のことを理解して、その相手の良さを引き出すようなフォトグラファーになりたいと思っています。バンドの良さや個性を写真を通して一緒に見つけていきたいなと思っています。
ー ありがとうございます!続きましてお聞きしたいのは、キャリアの多くの経験の中は一番好きな思い出とかありますか?
一番印象深い思い出は、友人が主催する「MUJINTO cinema CAMP」という無人島で映画を観るフェスで、公式カメラマンとして参加させていただいた時のことです。当時は会社員で独立前でしたが、そこで撮った全景の1枚写真が評判が良く、とても喜んでもらえました。その写真は色々なメディア媒体で使われたり、その写真をきっかけで次のイベントのチケットを購入したお客さんもいたと聞いていました。このことが私の中で成功体験として自信に繋がり、フォトグラファーとしてもっとやっていきたいと思った原点の一枚になりました。
ー それは嬉しいですね!
その写真は、後でお送りするんですけど、かなり高い位置から撮ったもので、その写真を撮る過程でいろんな人に協力していただいて、でっかい脚立を持ってきてもらったり、支えていただきながら、一緒に作り上げた1枚なんです。それが評価されたことも嬉しかったですね。
ー 次のイベントに行きたくなるような写真になったと素敵な感想ですね!今までのキャリアの中で一番苦労した期間はいつでしたか?
そうですね、基本的にいつも楽しくやっているので、苦労した時期と言うと難しいんですけど、最近のお仕事でドラマ・映画の制作現場の帯同撮影をやらせていただきました。それは毎日朝早くて夜遅くて。冬場ということもあり、長時間寒い中でのロケ撮影もあり、初めて寒さでお腹が痛くなりました(苦笑)。体力的に苦労した撮影でした。でもそんな中でも震えずにすらすらセリフが言えて演じられる役者さんたち、照明部さん、映像部さん、最前線で活躍する様々な分野のプロの仕事を目の当たりにできる刺激的な撮影期間でした。
この作品では場面写真、劇用写真、ライブ写真、撮影中のオフショットなど、作品にまつわるあらゆる写真を担当しました。特に劇用写真では、映像の中で使う家族写真、アーティスト写真、ポスター・グッズ写真、宣材写真など、多ジャンルの写真を作品のイメージに合わせて撮影していきました。一つのお仕事で、これだけの多くの写真を撮影することはこれまでに無いことで、大きな挑戦になりました。
大変でしたが、自分にとってステップアップにつながった経験でした。
— 楽しく乗り越えたということすね!
そうですね。クランクインからクランクアップまで、マラソンのようなイメージで、最後まで走り切った実感が持てて、ものすごく達成感があった仕事でした。
ー 素敵な経験ですね!もし、もう一度最初からキャリアのすべてをやり直すとしたら、何かを変えたいと思うことはありますか? 例えば、「こうすればよかったのに」、それとも、「あ、それをやめたらよかったのに」。
そうですね….…会社員時代もそれはそれで良い経験をさせていただきましたが、もう少し早めに写真の道に進めば良かったかなとか、もう少し若いタイミングで色々な写真の経験ができたらと、思うことはあります。でも、会社員時代では良い人間関係に恵まれましたし、今も写真をお願いしてくださったり、そこからキャリアが広がった部分もあります。ただ、もう少し早く始めていれば、とは思いますね。
ー フォトグラファーは多くの人が夢見る仕事だと思いますが、川島さんにとって、自分の目標や夢を実現するために、どんなプロセスとアプローチが必要だと思いますか?
よく言われる話ですが、目標や夢があったら、とにかく周りに言いまくるのがいいと思います。自ずとそれが繋がっていくので。写真はスキルも大事なんですが、スキルは経験と共に後からついてくるものだと思っています。とにかくまずは、どれだけいろんな人に出会えるか、チャンスを掴めるかが大事だと思います。
ー いいですね!川島さんも会社員だった頃、自分の夢について周りに話していましたか?
ちょこちょこ話してましたね。普段から「写真撮りたい」と話していましたし、プライベートでもライブ写真を撮ってSNSにアップしていました。気づいてもらえた部分もあったのかなと思っています。
ー 夢といえば、何か今の夢はありますか?
今の夢は…やっぱり写真は人との繋がりが大切なので、これからもいろんな人と出会い、何かあるたびに呼ばれたりして、節目節目で写真を残して最終的には遺影を頼まれるぐらい(笑)、写真を通して繋がり続ける関係を、これからも築けていけたらいいなと思っています。あと、目先の目標としては、さっき話した昔作ったライブイベントが自分の中でアイデンティティのような存在になっていて、くじけそうな時にはその風景をよく思い出します。いつかまた、あのような空間や、好きな人達とまた会えるような場所を作りたいなと密かに考えています。
ー とても素敵な夢ですね!ちなみに、プライベートでは好きな音楽のジャンルや特に好きなアーティストはいますか?
結構何でも聴くんですけども、昔から好きなのは90年代や2000年代の日本のロックアーティスト、また60年代や70年代の少し古いロックも好きです。特にインディーロックやガレージロックといったジャンルが好きですね。一番好きなアーティストはチバユウスケさんで、ミッシェル・ガン・エレファントというバンドが好きです。フロントマンのチバユウスケさんがこれまでにいろんなバンド活動をされていて、そのバンドを全部追って、ライブも観に行ったりしていました。チバさんが自分の中で一番のアーティストですかね。ちなみに今、これ着てます (笑)(立って、バンドTシャツを見せている)チバさんの!
ー おお、かっこいいデザインじゃないですか!
そう、かっこいいですよね 。これ撮ってる写真家さんも大好きです!
ー 川島さんも好きなアーティストの写真を撮りたいとか思ったりしますか?例えば好きなアーティストのグッズの写真とライブ写真とか。
はい、もちろん撮りたいです。ただ、チバさんは去年亡くなられてしまったので、もう叶わなくなってしまいました…。他にも好きなアーティストがいるので、いつかチャンスがあれば、会えたらなと思っています。でも緊張しいなので(笑)ちゃんと仕事できるのか?でもしっかりやらなきゃ!みたいな感じですね(笑) 。
ー それは多分一番難しいですね!(笑)
そうですね。別れますよね。好きなアーティストに会いたいという人いれば、会いたくないというタイプもいますよね。
ー そうですね、確かに!
割とプライベートだと会いたくないタイプではありますが、もし仕事のチャンスがあれば…やりたいです。
ー 手が震えてるのにカメラを持つのは難しいと思いますけど…(笑)
そうですね、もう絶対めちゃくちゃ緊張しちゃうと思います(笑)
ー でも、好きなアーティストだからこそ、ファンとしての気持ちもあるので、どう撮れば良いか一番わかるかもしれないですね。逆に。
あ、そうですね。確かに!
ー ここから撮った方が一番かっこいいとか…
ファン目線というのは絶対にあるので…そうですね、そういうのも撮ってみたいですね。以前好きなアーティストとお仕事する機会があって、その時は本当にファン目線で撮らせていただきました。めちゃくちゃ楽しかったです(笑)
ー いいですね!そして、最後のメインの質問になりますが、現在ここまでクリエイティブに活躍されている一番の理由は何だと思いますか?
何事も面白がれる性格というところですかね。撮影中でも、もしかしたら誰よりも楽しんでるのは多分私だと思ってて…(笑)
ー それは伝わってます!今話していて、すごく伝わってます(笑)
(笑)はい。やっぱり人と一緒に何かを作るということが好きなので、基本的に何でも楽しめる、面白がれるというところが大きいことじゃないかなと思ってます。
ー ありがとうございます!そして、最後にスピードラウンドしたいと思います!短くて簡単な質問に対して直感で答えてください。特に深く考える必要もなく、パッと思いついた答えで大丈夫です。では、始まりまーーす!
はい(笑)!
ー好きなカメラブランド?
ニコン!
ー ライブ撮影がスタジオ撮影?
ライブ撮影!
ー 朝の撮影が夜の撮影?
朝の撮影!
ー 自然光かスタジオ照明?
自然光。
ー デジタルかアナログ?
(考えながら)難しい…..まぁ、デジタルかなあ。やあー、好きでいうとアナログ(笑)
ー お気に入り編集ソフト?
LIGHT ROOMですね。
ー ライブ前の雰囲気がライブ後の雰囲気?
前の雰囲気!
ー もしフォトグラファーでなければ何をしていたと思いますか?
何をしていた….企画業!
ー 休みの日は何をしますか?
休みの日は…猫とダラダラします。
ー はい、以上となります。ありがとうございました(笑)!
ありがとうございました(笑)!
インタビュー・文:Mazlina Olga
写真:川島彩水