さいちょー:写真に救われたライブフォトグラファー

さいちょーさんにとって、人生で最も辛かった時期は、思いがけずキャリアの転機になりました。苦しい時間のなか、再び写真と向き合ったことで、写真が単なる趣味から自分を支える大切なものへと変わり、やがてライブフォトグラファーとしての道へとつながりました。現在は幅広いジャンルのアーティストやファンの一瞬の表情を捉え、ライブの輝きを写真に刻んでいます。

今回のインタビューでは、彼が直面した困難がどのように創作の原動力となったのか、好奇心や学ぶ姿勢がどのように彼の成長を支えたのか、そして仕事や周りの人への尊重が、フォトグラファーとしてのキャリアにおいてどれだけ大切かを伺います。

この度はインタビューの機会をいただき、ありがとうございます!まずはフォトグラファーとしてのお仕事以外で、さいちょーさんご自身について少し自己紹介をお願いできますか?

こちらこそインタビューのお声がけありがとうございます!父親が転勤族だったので、小学校6年生までは全国各地を転々としていました。そこからは千葉県にずっと実家がありますので、出身地を聞かれると千葉県と答えています。大学時代は軽音楽サークルで友達とバンドをやっていました。ガンダムとラーメン(ラーメン二郎、家系ラーメン)が大好きです!

—「さいちょー」さんのお名前の由来を教えていただけますか?

私の苗字(西長 にしなが)を違う読み方にしたものです。小学校の歴史の授業で「最澄・空海」という人物が出てきた際に「おまえもさいちょーじゃん!」となって以来、30年以上このあだ名です(笑)。

ライブ写真を撮るようになる前、さいちょーさんにとって音楽はどんな存在でしたか?

音楽は自分と人を繋ぐなくてはならない存在でした。中学生くらいからMD(ミニディスク)に好きなアーティストの曲を録音したものを友達同士で借りて聴いて、知らなかったアーティストに出会ったりしていました。高校1年生の頃に「Dragon Ash」を知り、影響を受けたアーティストを数珠つなぎのように聴くようになって、たくさんのアーティストを知りました。高校生の頃、当時下北沢にあったスクーラーレコーズに通うようになり、スタッフやお客さんとも常に音楽を通じた交流がありました。当時の音楽仲間とはもう連絡がとれなくなってしまいましたが、何かのキッカケで再会できたらいいなとは常に思っています。

※スクーラーレコーズ:当時 山嵐などのバンドが所属していたメガフォースコーポレーションが運営していたレコードショップ

Artist: Aldios

フォトグラファーになりたいと思ったきっかけや、ライブフォトグラファーになるまでの具体的なプロセスやエピソードについて教えていただけますか?

「なりたい」と思ったキッカケは思い返しても、あったっけ?と・・・
33歳の頃に自身が体調を崩したことをキッカケに、なにかのめり込めるものをと思い買ったのが、初めての一眼レフカメラでした。
最初は「ダンボー」というフィギュアを撮って、背景がすごいボケる!すごい!みたいな所からのスタートでした。知り合いや友人にバンドをやっている人がいたので、「カメラ買ったんだよ。ライブ行くときにちょっと撮ってもいい?」というところからがスタートでした。
その時に渡した写真をSNSに載せてくれて、それがうれしくてライブに行く度に写真を撮って、ライブのあとの打ち上げでかっこいいなと思った対バンの方と『ライブ写真最近撮り始めたんです』と話して、「じゃあ俺達のことも今度撮ってよ!」と言ってもらって、他のバンドも撮るようになって・・・の繰り返しでした。

特に誰かに憧れてライブ写真を撮り始めたわけではなかったので、音楽メディアのライブレポートが写真の先生でした。今のスタイルは確実にその頃に見ていた写真の影響が大きいです。ライブ写真を撮っている知り合いも全くいなかったので、とにかくカッコいいライブ写真を撮る人と知り合いになろう!とInstagramでいろんな人をフォローして、フォローバックしてくれた人が近くで撮影の時にDMしてご挨拶させてもらってを繰り返して知り合いが増えていきました。

そうした仲間が、複数人カメラマンが必要な仕事に呼んでくれたりしていろんな経験を積ませてもらいました。今でも仲良くしてくれているカメラマン仲間はその当時知り合った人が大半です。
今は少しずつそんな仲間に恩返ししたり、後輩にも自分がしてもらったようにしてあげようと、している時期ですね。

初めて買った一眼レフカメラ Canon EOS8000D

一番最初の撮影をまだ覚えていますか?その経験はどうでしたか?

初めてライブ写真を一眼レフカメラで撮ったときは、カメラの設定も全部オートで撮った記憶があります。暗いライブハウスでの撮影は、ブレブレの写真がたくさんで、見せられる写真の枚数が本当に少なかった記憶があります。でもそれが非常に充実した時間で、もっと上手に撮るには何が必要なんだろう?とレンズを買い替えたり一気にのめり込むキッカケになりました。

ちなみに、改めて思い返すと大学の軽音楽サークルでコンパクトデジタルカメラでみんなの写真を撮っていたなと。当時からアーティストが好きというよりは音楽をやっている仲間が好きだったんだと思います。

ライブ撮影を始めた初期の頃、一番苦労した技術的な課題は何でしたか?

当時はライブ写真を撮っている人が周りにいなかったので、どんな設定で撮ればいいのかわからないことが課題でした。友人に聞けないので、インターネットで調べて「シャッタースピードはいくつ以上にするとブレにくい」「ISO感度はいくつくらいまでならノイズはそこまで目立たない」などを知って次のライブでそれを試してみるを繰り返して覚えていきました。ライブ写真を撮り始めて1年以上はノーギャラで友達のライブに行って写真を撮り続けていただので、常にトライアンドエラーで知らないことを試して覚えていきました。

ライブによって音楽ジャンルや会場の環境も毎回違うと思いますが、撮影に向けて事前にどのような準備をされていますか?

基本的に下調べ好きなので、初めての会場に行く場合は会場のホームページで図面を見たり、会場名+Photo byでSNSを検索して他の人が同じ会場で撮影した写真を見たりはします。会場の広さがわかれば、必要な望遠レンズの長さが大体わかるのでそこで必要そうな機材を持ち込むようにしています。
セットリストは事前に共有される場合はプレイリストを作って全体の流れは必ず確認するようにします。初めてのアーティストを撮影する場合は、「この曲はお客さんがサビで手を上げて盛り上がりそうだな」という曲の当たりをつけて当日マネージャーなどに確認するようにしています。そういう曲は会場の後方から撮影してライブの盛り上がりが伝わる写真を残すようにしています。
ライブの演出で特効がある場合は、どこから撮るのが一番いいかなとリハで会場の色々なところを回って確認するようにしています。

今レギュラーで撮影依頼をいただいている方々は、バンドやアイドルなど様々なジャンルのアーティストがいるので、撮影の度に頭を切り替えて撮影してます。

撮影の際に使用されているカメラやレンズについて教えていただけますか?
また、こだわりの機材や設定などがあれば、ぜひ伺いたいです。

カメラはCanonのミラーレスで統一しています。常に4台持ち込むようにしていますが、3台で撮影することが多いです。レンズはCanonのミラーレス専用RFレンズで統一しています。(魚眼を除く)広角、標準、望遠、魚眼に50mmの単焦点レンズと、本当に普通のレンズラインナップです。なるべく新しい機材に更新していくことは意識しています。クライアント視点でいうと、同じギャランティを払うなら新しい機材を使ってる人のほうがいいよな・・・と(笑)。

一度そういう経験をしたことで、同じような悩みを抱えた人の力になれるかもしれないと思えることは自分の力にもなっていると思います。

さいちょーさんはライブフォトグラファーだけでなく、以前からされていたお仕事も続けていらっしゃると伺いました。ダブルワークとして音楽業界で活躍している方も少なくないと思いますが、さいちょーさんはその二つの活動をどのようにこなしていますか?
また、ご多忙の中でプライベートの時間を確保することはできますか?

元々カメラを始める前から一般企業でいわゆるサラリーマンをしています。今も継続していて、今年で20年経ったようです。バンドマンも普段はサラリーマンをしている人も多いので、私が特別なことをしているイメージはありません。周りのカメラマンからはクレイジーだと言われてますが笑「それぞれの時間の時はその仕事を一生懸命やる」それ以外は特にないんじゃないかな。
休みの日は家族と出かけたりしていますよ!あんまり家にいないのに、それを許してくれる家族には頭が上がりません。

— 今振り返ると、あの時の失敗があったからこそ今がある、と思う経験はありますか?

カメラを始めるキッカケにもなった、仕事をキッカケにパニック障害や鬱を経験したことでしょうか。一度こういう経験をすると、元には戻れないと言われることが多いです。私も元には戻れないなと絶望しかけましたが、この経験があったから私はカメラに出会えているので、後悔はありません。
また、一度そういう経験をしたことで、同じような悩みを抱えた人の力になれるかもしれないと思えることは自分の力にもなっていると思います。

— 貴重なお話を教えてくださりありがとうございます。同じような悩みを抱えている方は多いと思いますが、振り返ってみて、その当時、カメラ以外に何をすると気持ちが楽になりましたか?

当時はカメラ以外だと、パズルゲームとか没頭すると時間が過ぎてくれるものにハマっていた記憶があります。音楽を聴くことも、そのタイミングは違うことを考えなくてよくなったので助けになってくれていたと思います。

撮影するのに好きな音楽ジャンルと、プライベートで聴く音楽は同じですか?

撮影しているアーティストのことはみんな大好きなので、プライベートでも運転中によく聴いています。元々は聴いていなかったジャンルのアーティストを撮影することもあるので、新鮮な気持ちで音楽が聴けるので、そういうことも楽しいですね。

これまで撮影してきた中で、一番印象に残っているライブはどれですか?

群馬のバンドLILYの活動休止前ラストライブです。私の先輩バンドの後輩なのですが、初めて私のライブ撮影にギャランティを出してくれたのが彼らでした。そこから数年に渡り一緒に活動してきたバンドの活動休止を写真に残すことができたのは今でも誇りです。私のスマートフォンの壁紙は今でもその時のライブ写真です。

ライブ中に様々な予想外なハプニングやトラブルが起こってしまうこともあると思いますが、今でも忘れられない、「これはやばい」と思った経験はありますか?

7年くらい前だと思いますが、サーキットイベントのオフィシャルカメラマンを担当していた時に、望遠レンズが壊れたときは焦りました。ズームの操作ができなくなってしまいましたが、一番ズームさせた望遠側から動かなくなったのがせめてもの救いでした。

これから始める人にとって、まず身につけるべき一番のスキルは何だと思いますか?また、初心者がポートフォリオを作り始めるには、どんな方法がおすすめですか?

これはもう絶対にコミュニケーション能力です!相手にいい印象を持ってもらえないと、撮影をお願いしようと思ってもらえないので、勇気を持って自分から挨拶しましょう!
私もちゃんとポートフォリオ作れていないので偉そうなことは言えないですが、Instagramなど、写真が一覧で見れるSNSは時々表示を整理して、どんな写真が撮れる人なのかがすぐわかるようにしているといいのかなと思います。

写真に自信を持てずに悩んでいる人に、どんな言葉をかけたいですか?

自分の写真を一番好きでいられるのは自分なので、まずは写真を撮ってる自分を好きになりましょう!すぐ好きになれなくても、やめずに続けていけばそれが自信につながっていきますよ!

いつか撮影してみたい、憧れのアーティストはいますか? 

藤井風さんはいつか撮影したいです!自分の涙腺に響くアーティストは常に撮りたいと思っています。

— 藤井風さんの一番好きな曲は何ですか?

一番・・・が決められないので特に好きな2曲を挙げさせてください。「旅路」、「満ちてゆく」、この2曲はどちらも大好きです。
ネットフリックスでライブ作品も観れるので、ライブ映像を観たことがない方はぜひ観てみてください。

ライブフォトグラファーは多くの人が夢見る仕事だと思いますが、さいちょーさんにとって、自分の目標や夢を実現するために、どんなプロセスとアプローチが必要だと思いますか?

現在進行系で活躍しているライブフォトグラファーも、そこに行き着くまでのプロセスは本当に様々です。「どんなやり方が自分に合っているか」を自分なりに見つけていくことが一番大切だと思います。
私はカメラを始めた時の環境から、ダブルワークを維持しつつライブフォトグラファーとしての自分の価値を最大化させることを第一に考えて活動しています。それには自身のサラリーマンの経験が必要不可欠でしたし、自身のフォトグラファーとしての経験もサラリーマンとしての生活にフィードバックしています。私にはこのやり方が合っていたんだと改めて思います。もし悩んでいたら、相談できる人に思っていることを全部話してみれば、話している過程で自分が考えていることが整理できるかも知れませんよ。

Artist: 3markets[ ]

夢といえば、何か今の夢はありますか?

特に大きな野望はないんですが、家族がやりたいことを応援できる稼ぎはしっかり確保していきたいなと思ってます。時々みんなで旅行に行ったりできればそれで満足ですね。

現在ここまでクリエイティブに活躍されている一番の理由は何だと思いますか?

「辞めずに続けたから」、「周りの仲間を大切にしたから」この2つだと思います。周りの仲間がいなかったらできなかったことや、知り合えなかった繋がりがたくさんあります。技術ももちろん必要ですが、仲間が一番大切です。これからも仲間と一緒に頑張っていきたいです。

with Okabe Mei (check out her interview here)

インタビュー・文:マズリナ・オルガ
アーティスト写真:さいちょー

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