オカベメイ:夢を追いかけ、安定を捨てたフォトグラファー

大学のサークル活動で「ちょっと写真を撮ってみて」とカメラを手渡されたことが、オカベメイさんの人生を大きく変えることになる――当時の彼女は、そんな未来を想像すらしていませんでした。軽い気持ちで始めた撮影でしたが、次第にそれにのめり込み、安定した道から外れて、ライブフォトグラファーという未知の世界へ飛び込むことになりました。

今では、ジャンルを問わずさまざまなアーティストのライブ会場で、観客と同じ熱量で、まるでその場にいるかのような迫力ある写真を撮り続けています。そんな彼女は、どのようにしてこのキャリアをスタートさせたのでしょうか?ここに至るまでには、どんな挑戦や犠牲があったのでしょう?そして、男性が多いこの業界で、女性としてキャリアを築くということは?
夢を追いかけるということの難しさと喜び、そのすべてを語ってもらいました。

この度はインタビューの機会をいただき、ありがとうございます!まず最初に、お仕事以外のことについて、オカベさんご自身のことを少し自己紹介していただけますか?

こちらこそ、お声がけいただきありがとうございます。生まれも育ちも東京で、小学生から中学生の頃までは歌舞伎が大好きな少し変わった子供でした。月に2回は歌舞伎座に1人で通う生活を送ってました。中学は和太鼓、高校はサッカー部マネージャー、大学は系音楽部と系統があまり定まらない日々を過ごしてきました。

—  オカベさんがライブフォトグラファーとして活躍されておりますが、音楽写真に惹かれたきっかけは何ですか?これが自分のやりたいことだと確信した決定的な瞬間はありましたか?

惹かれたキッカケは完全にこの日のコレだ!となることはないのですが、純粋にその日限りのライブの瞬間瞬間をおさめることがとても楽しかったことがどんどん惹かれていく大きな要因だったと思います。自分がやりたいことはこれだ!と確信した瞬間も、後に出てくる話と少し被ってしまうのですが、仕事にしたいと思う瞬間はライブ撮影する度にいつも幾度となく感じることがありました。現実的に考え始めたのは、お金をきちんといただいて撮影するようになった時からだと思います。


—  キャリアを築くのが決して簡単ではない音楽業界において、オカベさんはどのようにライブフォトグラファーとしての道を歩んでこられたのでしょうか?そのプロセスや経験について教えていただけますか?

写真を撮り始めたのは、大学時代の軽音サークルです。先輩に一眼レフでライブを撮影してくれる方がいて、その先輩の出番の時に代わりにカメラを持たせてもらったことがはじまりでした。最初は本当にサークル内で留まっていたのですが、気づけば自分でCanonの一眼レフを購入して、外でも活動していた先輩のバンドを撮らせてもらうようになってました。

そこからは、仕事にしてみたいなと思う自分と、そんな簡単な世界じゃないからちゃんと就活した上で、副業として趣味でやった方がいいのではないかと長らく葛藤する学生生活を過ごしました。きっと当時も仕事にしたい気持ちの方がずっと強かったけど、真正面から向かい合う勇気がなかったんだろうなと今では感じます。良くも悪くも、昔から安定志向なところがあったので、不安定な世界に飛び込む勇気をいつまでも持てなかったのもありますね。多方面から大学はちゃんと卒業するべきとアドバイスを受けながらも、撮影を優先してあまり大学に行かないようになり、4年生の後期頃に母に大学を辞めてカメラマンとして頑張りたいと伝えることができました。大学に進学させてもらえることも当たり前ではないですし、授業を休んだり、結果4年生での中退という形になったり、あまり人にオススメできるようなやり方ではないですね(笑)。

母にも色んな心配をかけたと思いますし、結果として進路の判断が迫られるギリギリまで相談しなかったことで、傷つけてもしまったと今では反省してます。ただ、高校受験も大学受験もなんとなくなぁなぁにやってきた自分にとっては、はじめて自発的にやりたいと思ったことなので、行動にうつせたことは今でもよかったなと感じます。やり方に関してはもっとうまいことできたのではないかと思いますが。。何よりも、きちんと向かい合ってくれた上で、私自身の人生だからと許してくれた母にはとても感謝しています。身近な人たちには話していたことですが、こう外にお話しするのも少し恥ずかしいですね。

その後はとにかくライブハウスに通って、撮ってみたいバンドに連絡を取ったり、対バンの方々に挨拶をしたり、少しずつ撮影の機会を増やしていったり、ライブハウスやSNSで繋がったカメラマンの先輩方に色々教えてもらったり、現場に連れていったりしていただいて、今に至った形になります。

男性同士だから今盛り上がっているのではないかとか、女である自分がこの場に踏み込んだら場違いではないかとか、変に気を遣ってしまって、本来だったら取っ払えてたはずの壁を自ら作り上げてしまっているなと思う瞬間がいくつかあります。


—  初めてライブを撮影したときのことを覚えていらっしゃいますか?どんな経験でしたか?

初めてカメラを持たせてもらったサークルでの撮影は、楽しくて仕方なかったです。自分自身もライブ終わって先輩が送ってくれる写真がすごく楽しみでしたし、学生生活の貴重な思い出を残せることに喜びを感じていました。はじめのタイミングは仕事にしたいとも思っていなかった時期にはなるので、純粋に写真を撮ることを楽しんでいたなと思います。私がカメラを持つようになってからも、サークルの友達や後輩色んな人が喜んでくれることがとっても嬉しくて、すごくワクワクする日々でした。

—  音楽業界で女性フォトグラファーとして活動する中で、困難や偏見を感じたことはありますか?

私自身はあまりあからさまに女性だからという面で何かしら、不利な扱いを受けたことがないのですが、逆に自分自身で壁を作ってしまうタイミングが多いのが悩みです。男性同士だから今盛り上がっているのではないかとか、女である自分がこの場に踏み込んだら場違いではないかとか、変に気を遣ってしまって、本来だったら取っ払えてたはずの壁を自ら作り上げてしまっているな…と思う瞬間がいくつかあります。また、今では心も強くなったし、自分自身の経験も積んだのでそういった考えになることはありませんが、はじめたばかりの頃はバンドマン目当てでカメラマンをしていると思われることを過剰に嫌がっていた自分もいました。外部で撮りはじめた初期はそう思われるのが嫌で、わざと現場にはすっぴんで行ってました。今では時間がなくてすっぴんでいることが多いのですが(笑)。


—  オカベさんの写真を拝見すると、どの写真もとてもエネルギッシュで、ライブの楽しい雰囲気がすごく伝わってきます!ライブパフォーマンス中の暗い環境での撮影はとても難しくプレッシャーがかかると思いますが、ライヴ中の予測不可能な瞬間、例えば照明の変化や観客との兼ね合いにはどのように対処していますか?

そう言って頂けることとても嬉しいです。正直、ライブの最中、本当にその瞬間という時は頭は使ってないので、ほとんどなにも考えてないです。もちろん、リハーサルを見た上で「ここはこういう照明だから、こうしよう」とか、「こういう演出だから、こう撮ろう」とか、「この曲のここはみんなジャンプするから、引きで撮ろう」とか、決めている部分もあります。

最初の頃は「何曲目でここにいて、ここは必ずこう!」みたいなのを決めていたのですが、そういう項目を決めすぎてしまうと、ライブという本番何が起きるかわからない中でイレギュラーが発生した時に、頭が真っ白になってしまうことがあったので…。カメラの設定だけはリハ等でだいたいを決めて、後は本番自分も何が起こるかな~とライブを楽しみながら撮っています。照明の変化に合わせることは、完全に場数で慣れていきました。お客さんに関しては、動線がない箱だとどうしても視界にお邪魔してしまう瞬間があるので、なるべく短時間で邪魔しないように、そしてありがとうございます!の気持ちが伝わるように動いて撮るよう気をつけてます。本当にお客さん皆様やさしくて、私に気づくと道を作ってくれたり、モッシュが起きるとそれとなく守ってくれたり、ダイブであたってしまったら去り際に『ごめん!!』と叫んでくれたり、本当に私が撮影させていただく現場は暖かいお客さんばかりです。お客さんが楽しめることが最優先だと思うので、仕事だから!と傲慢にならないように気をつけています。


—  ライブ中に様々な予想外なハプニングやトラブルが起こってしまうこともあると思いますが、今でも忘れられない、「これはやばい」と思った経験はありますか?

今のところ、自身の絶望的なトラブルは起きたことないですが、ダイブがある現場だとどうしても出演者側のマイクやケーブルトラブルが起きることもあるので、そういった時に自分自身が1番近くにいた際にはすぐに助けられるように気をつけています。

—  この仕事を続けてきた中で、自分の中で一番変わったことは何だと感じていますか?

一番の変化は、人生でやりたいことを見つけられたことですね。先述した通り、安定志向だったのもあって進学して、就活して、普通に働いて、普通に結婚して、みたいなものを想像して生きていたので、こんなに自分から突っ込んでいきたい!と思えることに出会えたこと、本当に突っ込んでいけたことに私自身でびっくりしています。突っ込んでからは常に、何事にも考え方は転々と変わっているので、変化していることばかりです。もっと時間が経ってから振り返らないと、変化に気づけないのかもしれないです(笑)。


—  写真を見返したときに『これは自分らしい一枚だ』と思う瞬間はありますか?

自分自身でまだ確実な自分らしさ!というものがキッチリと見つけられていなのですが(見つけることが今の課題でもあります)、写真を見ていただいてる方から『キラキラしている』『表情の捉え方が良い』と褒めていただくことが多いです。そういっていただくことが多いからこそ、表情の変化を逃したくないという気持ちもあるので、なんだかいつもと違う表情だったり、なにかはじけているような写真は自分らしいのかなとも感じています。早くハッキリと自分らしさを見つけて強みにして、更に磨いていきたいですね。

いつか撮影してみたいアーティストはいますか?

内心はかなり野心家なので沢山いるのですが、叶うまで心の中に秘めさせてください!!!!!

幸せな瞬間たくさん書ききれないほどあるので、本当にいいお仕事です。


—  今までのキャリアで一番苦労した時期はいつですか。そしてそれをどうやって乗り越えましたか?

苦労している時期は今もずっとだと思います。撮影のたびに、「最高の瞬間を撮ることができた!」と思う自分もいれば、「いやでももっとああできたのではないか」とか色々反省ばかりになる自分もいて……。とにかく撮影中以外では考えることが多いので、まだ苦労を乗り越えられた!という体験をできたと言いきれることがないかもしれないです。もっとがむしゃらに励んでいきたいですね。やはり苦労は乗り越えた分だけ強くなれると思いますし、自分自身の成長につながると思うので。

—  フォトグラファーは多くの人が夢見る仕事だと思いますが、オカベさんにとって、自分の目標や夢を実現するために、どんなプロセスとアプローチが必要だと思いますか?

やりたいと思ったことを、やりたいと思った時に、ひたすら自分に正直に頑張っていくのが1番だなと思います。学生時代に保険をかけて向き合わなかった時間に、きちんと向き合って、きちんと考えて動いていたら、もっと早く仕事に繋げられたかなと思うからです。ライブカメラマンはカメラマンの中でもちょっと特殊な部類になると思いますし、本当になり方は人それぞれで正解がない世界なので、色んな人と触れ合って、色んな話を聞いて、自分に合ったやり方、自分がやりたいやり方をするのがいいと思います。誰がこうしているからこうしないといけない、ということもないですし、誰がこうしているから絶対に成功する、というわけでもない世界だと思うので……。正直、自分自身もまだまだ精進の身なので、あまりプロセスとか偉そうにお話しできないのもあります(笑)。


—  夢といえば、何か今の夢はありますか?

今の夢は、ライブカメラマンとしての人生を、何十年と経っても続けていられるようになることです。まだまだ収入面に関しても波がありますし、病気や怪我をした場合は完全に収入がゼロになってしまうので、そういった面でももっと土台をしっかりと作って、長くライブカメラマンとして生き残れるようになりたいですね。歳をとってもバリバリ動ける人でいたいです。

この仕事を通して、最も幸せを感じる瞬間はいつですか?

好きなことを仕事にできている、ということが最も幸せです。具体的な瞬間で言うのであれば、本当に同じくらいの幸せな瞬間が2つ思い浮かびます。

1つは撮影しているその瞬間です。やっぱり写真を撮るということが好きですし、ライブの空間も好きなので本当に撮影中は緊張感もあるけど全て幸せです。2つめは、出演者ご本人や、周りのスタッフの方々、お客さん、同業のカメラマンさん…どなたでも写真を褒めてもらえる瞬間が最高に幸せです。裏方なので直接褒めていただけることってどんな形でも本当に有難いことです。SNSとかで褒めていただいた時には、いまだに嬉しくてスクショしてしまいます(笑)。

褒めてもらえたその写真の、その瞬間を撮影できてよかったな、と心から思える至福の時間です。これを答えている間にも、幸せだと思うことがたくさん浮かんできてしまうのですが、継続して撮影に呼んでもらえることもとっても幸せですね。たくさんいるカメラマンの中で自分を選んでもらえることって本当に嬉しいですし、その期待にちゃんと応え続けられる自分でいようと思えます。幸せな瞬間他にもたくさん書ききれないほどあるので、本当にいいお仕事です。


—  現在ここまでクリエイティブに活躍されている一番の理由は何だと思いますか?

人からいただくお仕事、自分1人では成立しないお仕事なので、やはり周りの方々に恵まれていることが大きな理由の1つだなと感じます。一緒になって上を目指していこうとしてくれるバンドだったり、現場に呼んでくださったり、紹介してくださったりする先輩だったり、セクションは違えど支えてくださる方だったり、本当にこれも書ききれないくらい色んな方に救われていて……。

環境以外の理由だとしたら、やはり続けたいと強く思える自分自身も理由の一つですかね。しんどいことがあって心が揺れ動く時も、負けたくない!続けたい!もっと上を目指したい!と思えるのは活動に多少なりともきちんと繋がっているのかなと、最近になって思えるようになりました。

正直、足元を見られることがあったり、都合よく扱われているなと感じる瞬間だったり、そんなことがたくさんある中で、怒りの感情も前向きな方向に変えられていることは続けている上で大事かなとも感じます。


インタビュー・文:Mazlina Olga
アーティスト写真:オカベメイ
トップ写真:てる

掲載アーティスト:

SBE 

Calls Name Again

Azami

Softspoken

C-GATE

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