中田由紀子:アーティストを変身させる力

音楽業界、特にヴィジュアル系の世界では、ライブ、ミュージックビデオ、アーティスト写真――そのすべてがアーティストの世界観を表現する場となる。そのようななか、ヘアメイクアーティストは欠かせない存在です。
今回お話を伺うのは、CMやミュージックビデオ、ライブなど幅広い現場で活躍する中田由紀子さん。繊細な技術と大胆な発想、その両方を求められるこの業界で、美しい物に対しての愛や創造力を武器にキャリアを築いてきました。
アーティストやファンの期待というプレッシャーの中、常に新しいビジュアルを生み出し続ける彼女の仕事とは? キャリアの始まりから、アイデアを形にするまでのプロセス、そしてヘアメイク業界で成功するための秘訣まで、じっくり伺います!

ー まず最初に、お仕事以外に関する中田さんご自身について、少し自己紹介していただけますか?

お仕事以外での自己紹介が慣れていなくて難しいのですが…(笑)名前は中田由紀子、現場ではユッキーと呼ばれることが多いです。東京生まれ東京育ちで、実家が和菓子屋を営んでいました。いま振り返れば和菓子の彩りや色彩など、美しいものに幼少期から触れる機会が人より多かったのかなと思います。

趣味が仕事になってしまったので、生活の軸としてヘアメイクがあり、休みの日もメイクやコスメに関することをしています。学生時代は美容専門学校と美術の短期大学をWスクールしていました。特に、現代アートが好きで、休みの日は森美術館や気になるアーティストの個展に足を運んだり、舞台を見たり…。最近だと蜷川美香さんの個展や、ヒグチユウコさん、あとはアパレルのイベントなどにも足を運ぶようにしています。

他の趣味でいうと旅行ですね。昨日もちょうどタイのお仕事から帰ってきたんですけど、海外のお仕事もすごく好きです。

ー 今まで一番好きな旅行先はどこでしたか?

全部良くて決めきれないくらいですが…カリフォルニアはすごく良かったです。町並みが素敵で!


ー 大人へと成長する中で、多くの若い女性(そして男性)が、自分の外見に意識をし始め、メイクもし始めると思いますが、その中でそれをキャリアにしようと決める人はそう多くはないです。そこで中田さんがヘアメイクに興味を持つようになったキッカケは何でしたか?そして、その興味がキャリアに至った経緯について教えていただけますでしょうか?

小学生の頃にGLAYさんにハマったことが大きなきっかけだと思います。特にJIROさんのヘアメイクスタイルにすごく興味を持ちました。当時はヘアメイクを担当されていたFats Berryという美容室に髪を切りに行ったりして「JIROさんと同じ髪型でお願いします。」とお願いしていました。笑
その後高校生になり、自分の進路を考えたときに、ヘアメイク以外の選択肢が出て来ず、自然とその道を選んだと言う流れです。

写真:川島彩水

ー 中田さんはファンとしての視点だけでなく、スタッフや関係者としての視点もご経験されているかと思いますが、この業界に入る前と後で、考え方に変化はありましたか?

そうですね。GLAYさんが好きだったのは小学生の頃なんですけど、その時は純粋に「この髪型可愛い、このメイク可愛い!」という感じで見ていました。ただ、お仕事として向き合うようになると、「この髪型カッコいいからやってみよう」とはいかなくて、全体のバランスを見て、今回の楽曲に合うようにしよう。メンバーが5人いるなら5人でバランスをとれるように…と、もちろん縛りがある中でヘアメイクに落とし込むっていう作業があります。考え方は変わったかという質問に答えられているか分からないのですが、責任感をもってお仕事に向き合っていこうという気持ちが強くなりました。



ー ライブ、CMやMV撮影など、ヘアメイクのお仕事は朝早くから夜遅くまでかかることが多いと思いますが、実際にヘアメイクの時間以外で準備や作業はどのくらい必要ですか?普段の一日の流れを教えていただけますでしょうか?

ライブの日は…お1人1時間から1時間半ぐらいをかけてメイクをします。例えばとある日の流れで言いますと、朝10時入り、ヘアメイクセッティング後3名ほどヘアメイクをし、間にリハーサルを挟み、また1人ヘアメイク、合計4人仕上げて全員のお直しののち本番といった流れになります。
本番中も何かあったときのために、楽屋やモニター前で待機をしていたり、アンコール前に汗をおさえたりお直しがあったり。本番後は関係者挨拶や取材等がある場合もあるので、再度お直しがあったりとライブの日の1日は慌ただしく過ごしております。

CMやMVになると、深夜や早朝から稼働のことが多くなり、始発入りや前日終電で現地に前乗り込みすることもあります。
こうやってお話ししていると、すごく過酷な現場のように思われてしまうかもしれませんが、好きなことをやってあるので辛いと思うことはあまりないです。撮影が続くとさすがに身体の負担は大変ですけどね(笑)。

写真:川島彩水

ー やっぱりこの業界は、ファンには見えない準備が想像以上に多いですね!

そうかもしれないです(笑)先ほどお話ししたことが1日の流れですが、私のところに新しくアーティスト写真のご依頼が来るまでには、アーティストさん側はもっと多くの準備をしていると思うので、すごく大変な世界だなと思います。

ー 人気アーティストのヘアメイクを担当される際、アーティスト自身からの期待だけでなく、ファンからの期待も大きいかと思います。そのような期待やプレッシャーにはどのように対処されていますか?また、ご自身が施されたヘアメイクに対するアーティスト本人やファンからの反応・感想は気になるものなのでしょうか?

実はあまりプレッシャーを感じないタイプです。昔は緊張するタイプでしたが、長くお仕事をさせてもらって、プレッシャーに思うだけ損と言うか…なるようにしかならないですし、自分の実力以上の事はできないので、やることをやるだけだなと思うようになりました。いつも自然体でいて、自分にできることをその場で最大限表現させてもらう。そんな感じが理想です(笑) ファンの方からメイクの反応や感想をもらえるのはもちろん嬉しいですよ!

ー 特にヴィジュアル系では、アーティストのコンセプトや世界観が強く、ヘアメイクはその重要な要素となっています。それぞれのコンセプトに合わせたヘアメイクはどのように生まれるのかぜひお聞きしたいので、アーティストからの依頼からアー写撮影まで、どのようなプロセスを経るのか、またスタイリストやアーティストとの話し合い・コラボレーションがあるのか等、お話しできる範囲で構いませんので、ぜひお聞かせください。

アーティスト写真の撮影では、先に楽曲のテーマや衣装が決まっているので、そちらに沿うように作っていきます。私が撮影を担当するアーティスト様はスタイリストさんとも交流がある場合が多いので、まだラフ画の段でヘアメイクの話をスタイリストさんともすることが多いです。髪型によってはヘアアクセサリーをご用意いただきたいこともあるので、よく打ち合わせはさせていただいています。普段のライブからヘアメイクを担当させていただいているアーティスト様とは、ライブの日に美容院に行ったら、こう染めてきてほしいなどミーティングしながらメイクをしたり。

初めましてで初回が撮影になることもあるので、その場合はLINEやZOOMで打ち合わせをします。色々資料を集めてご提案しますが、資料集めは主に日本というよりは海外のモデルさんやファッションショーのメイク、映画作品などからインスピレーションをもらうことが多いです。そのためにも普段から美術館や新しいスポット、展示会には足を運び新しいものを取り入れるようにしています。

写真:川島彩水

ー 中田さんはメイクレッスンに加えて、専門学校の講師としてのお仕事もされていると思いますが、その経験について教えていただけますでしょうか?

まずメイクレッスンはコロナ禍で始めました。コロナ禍の時一度仕事がゼロになったんですね。このままではいけないと思いましたし、何かしたいと思うようになりました。アルルカンの暁さんと写真展を開催したのもコロナ禍でしたし、何か違うことを始めたいと思って始めたのがメイク教室です。メイク教室では多数のファンの方がレッスンを受けにきてくださり、とても嬉しかったです。

専門学校の講師はお話をいただいてからお受けするまで結構悩みました。というのも、実際自分は教師という職業には一番遠い性格をしているも思っていましたので…。笑 ただ私は人に何かを教えるということが好きです。私も先輩からたくさんのことを教えていただけました。

今ちょうどアシスタントを新しく募集しようかなと思っているのでもしこの記事をみて気になった方がいたら、DMをもらえたら嬉しいです(笑)。
この春、4年間受け持った専門学校の講師のお仕事は一区切りつけるのですが、私にとってもとても貴重な経験となりました。

ー 中田さんにとって、ヘアメイクをする際に最も大切にしていることは何ですか?

会話と観察です。その人のことをより深く知ることによって、その人の好きなもの好きなニュアンス表現したいものを本人よりも私の方が説明できる位には本人のことを知っていたいです。頭の中にやりたいイメージがあっても、それを言語化できる人は意外と少ないのかなと思いますので、汲み取ってあげて私が形にすると言う作業をしています。

ー メイクやヘアスタイルにはトレンドがありますが、ヴィジュアル系のヘアメイクにもその他一般的なヘアメイクの流行が影響していると思いますか?それとも、完全に別の世界だと感じますか?

難しい質問だと思います。ヴィジュアル系の中でも細かいジャンル分けがあるので、流行を取り入れるか取り入れないかはバンドさんやその方に取り入れていいのかを吟味します。また、流行ってるものをそのまま取り入れるではなく必ず形を変えて落とし込むようにしています。「あぁ流行ってるもんね!最近みんなやってるね!」とはなりたくなくて…インタビューに答えていると自分が負けず嫌いなんだなって逆に気付かされますね(笑)。

ー 中田さんがご自身が負けず嫌いだとおっしゃってましたが、その性格は子供の頃からですか?

お仕事を始めてからな気がします。学生時代は、例えば体育祭で負けたからどうとか、成績がどうとかはなかったのですが…今の仕事はやっぱり好きなことなので、メイクで負ける?のは悔しいですね。勝敗があるわけではないですが、思い通りにできなかったときの悔しさはありますよね。しかもお仕事になると、もし失敗したら次の依頼がないですから….はじめてすぐはすごく悔しい思いをしたので、お仕事を始めてから負けず嫌いの性格が始まった気がします。

ー キャリアの初期時代に特に印象に残っているハプニングやエピソードはありますか?

本当に一番最初、人生で初めてのヘアメイクの現場は、今思うとよく行ったなと思いますが、もう何も知識もないまま、「とりあえず行ってみよう」みたいな感じで行ったんですよね。そしたら当たり前なんですけど何もできなくて。自分と同じようにファンデーションを塗ってみたんですけど、やっぱり男性なので、「アレ?」って(笑)

ー ああ、肌も違いますよね!

全然違いますね…。やっぱり色の選び方さえ難しくて!自分のメイクだったら全部1時間で終わるのに、初めて人にメイクしてみたら全然終わらなくて…そりゃそうだよなと(笑)。

ー ショックじゃなかったですか!

ショックでしたね。だからすぐ学校に通うことにしました(笑)



ー 中田さんは国内外のツアーへの帯同や、CMとMVの撮影など、様々なお仕事の経験をされてこられたと思いますが、一番印象的な思い出について教えていただけますか?

私にとって、初めてワールドツアーに同行させていただいたことが大きな転機となりました。その国によって電圧、湿度、気温、控え室の環境…全てが違います。全てが慣れない中で日本と同じクオリティーを出したい。とても鍛えられたツアーでした。

ー 海外の現場で、慣れない環境や限られた荷物でお仕事するのは本当に大変だと思いますが、その中で特に大変だったことや、困ったエピソードはありますか?

困ったエピソードは….海外のヘアメイクの楽屋に着いたとき、ハイチェアしかなかったことがあります(笑)。アーティストが座っている横に回り込んで美容室のような形を想像してもらえばいいんですけど、その会場ではバーのハイチェアのようなものしかなくて、見上げながらメイクをすることになったんです(笑)。それで急遽スタッフさんに低い椅子を探してもらって、なんとか届いたりしました。他にも電圧の違いで日本から持って行ったドライヤーが火を噴いたりしたこともありました。

ー ええ、急に使いたい道具が使えなくなった時は、どう対処しますか?

ドライヤーが火を噴いた時はすごく焦って、近くに買いに行きました。一応海外対応のもではあったのですが…何カ国も経由していたのでその国の電圧に合っていなかったのかもしれません。やっぱり初めて使うドライヤーだったので、すごく難しかったですよ。

ー お荷物はお仕事用の物と自分のプライベートの物が必要で、荷物が多くなってしまうと思いますが、そこは何を持って行くのか、どうやって決めますか?

ワールドツアーに行った時は、スーツケースを2個持って行きました。日本でもヘアメイクの道具だけで、常に23キロぐらいあります。プラス海外用に、もし何か壊れてしまった時のためにアイロンやドライヤーは2個入れておいたりします。予備を結構入れているので、メイクのキャリーケースはパンパンに詰めていて。もう1つ、約90リットルぐらいのスーツケースに自分の私物を入れている感じです。

ー 大変ですね!そして、ツアー中に移動と長時間の仕事が続く中で、やっぱり体調を崩しやすいかと思いますが、ツアー中に体調が崩してしまったら、もうそのほかヘアメイクさんがいないので、多分休めないじゃないですか?そこは体調を保つために気をつけてることとかありますか?

今まで幸いにも大きくツアー中に体調を崩したことがないんですけど、ちょっとでも危ないなと思うときのために薬を何種類も持ち歩いてます。あと、食べ物にも気をつけていますね。ありきたりですが氷やナマモノは疲れていたら避けたり。

ー キャリアを始める前に知っておきたかったことや、やっておけばよかったなということは何かありますか?

もっと回り道をしてもよかったかなと思います。私は思い立ったらすぐ動く性格なので、ヘアメイクがしたいと思ってこの業界にすぐ飛び込んでしまいましたが、今思えば一度美容室でサロンワークをする、ウィッグをつくる会社で技術を身に付けるなどいろいろ修行してから、この業界に入ってきたら、また違う価値観を持って働けていたのかなと思います。たらればかもしれません(笑)。

ー 多くの人がヘアメイクの仕事に就くことを目指していると思いますが、中田さんご自身は、目標や夢を達成するためにどのようなプロセスを踏むことが大事だと考えていらっしゃいますか?

人に教わるという事は大事だと思います。学校でもいいし、アシスタントに着くでもいい、事務所に入るのもいいと思います。人とのつながりを大切にして、考え込むよりもまずは動くことを大切にしています。

ー 夢と言えば、何か今の夢はありますか?

自分発信でなにかをしたいです。先ほどの質問でも少し触れたのですが、コロナ禍に開催した写真展「杓子」だったり、赤坂麻奈凪さんと開催した「婀」だったりもそうなんですけど、ヘアメイクだけというより、なにか新しいことを企画して形にしていきたいですね。

楽しいことをしていくので、見てていただけたら嬉しいです!

ー 最後のメインの質問ですが、現在こうしてクリエイティブにご活躍されている一番の理由は何だと思われますか?

結局人と人なので、人間関係ですかね。今の私はこうしてあるのも、たくさんの皆さんが「中田さんにこの現場を紹介するね」、「この人と合うと思うから、この人のメイクをしてみて」など人が人をつなげてくださった結果だと思います。

ー そして最後にスピードラウンドをしたいと思います。スピードラウンドラウンド短くて簡単な質問に対しては直感で答えてください。特に深く考える必要もないので、パッと思いついた答えでも大丈夫です!では、始まりまーす。職業病だなと思う時はありますか? 

 あります。人のメイクを観察しちゃう! (笑)

 ー 一番好きなメイクのブランドは?

エスティーローダー。

ー 手放せない愛用コスメは?

エスティーローダーのダブルウェア!

ー アーティストのヘアメイクをするのに3つアイテムしか使えないとしたら何を選びますか?

 難しい!!(笑)3つ! 

ー 全てがなくなって3つしか残ってないです!

ファンデーション。ジェルライナー。あとは….リップですね。

 ー 仕事をするんだったら、早朝と深夜、どちらの方が好きですか?

深夜。

ー 仕事でマイルールはありますか?

有ります。マイルールは道具を綺麗に使うこと。

ー 一番好きな現場の雰囲気は?

ハッピー!(笑)

ー メイク初心者におすすめする最初のアイテムは?
 
最初のアイテムは筆ですね。メイクブラシ。

ー 仕事中に一番よく使う言葉は?

「いいですね」とか!気分が上がる言葉を使うかもです。

ー お仕事と関係なく、プライベートに好きなアーティストや音楽のジャンルは?

やっぱりGLAYさんが今でも好きです。ロックも好きですし、今は結構幅広くK-POPとかも聴きますね。 

ー 最近ハマってるものは?

最近ハマってるものはタイコスメです。

ー 最後に、自分を表す色は何色ですか?そしてその理由!

自分を表す色はピンクですかね。ピンクのものをつい買っちゃいますね。 自分が好きって思ってたわけじゃないんですが、気が付くと身の回りや自分の部屋は凄くピンクです(笑)

ー 以上です。ありがとうございます!

ありがとうございます!

中田さんが担当した芸術的白塗り(ヘア)メイク

インタビュー・文:マズリナ・オルガ

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