フジモリトシキは、これまで数多くのライブハウスやフェス、そしてバックステージでカメラを回し続けてきた映像作家。彼の映像は、記録というよりも、まるで観る者をそのままピットの中へ引きずり込むような臨場感が特徴。瞬間を逃さない直感、タイミング、そして目の前で起きている「今」を何よりも大切にする姿勢が、その作品を支えている。19歳のとき、人生を大きく変えるバイク事故に遭い、片腕での生活を余儀なくされた。しかし彼は、立ち止まるのではなく、与えられたその後の人生を「ボーナス」と捉え、最大限に生きることを選んだ。それ以降、身体的な制約と音楽への揺るぎないリスペクト、その両方を抱えながら、映像を撮り続けている。
このインタビューでは、撮影や編集への向き合い方、人生を大きく変える困難をどう乗り越えてきたのか、そして「綺麗に見せる」こと以上に、温度や感情が伝わる映像を大切にしている理由について語ってもらった。

ー まず最初に、お仕事以外で、フジモリさんご自身について、自己紹介していただけますか?
神奈川県出身、33歳フジモリトシキです、かたわです。「かたわ(片腕)である」とい事が1つのアイデンティティなので簡単に経緯を話すと、19歳の時のバイク事故で左腕の神経が抜けて以来片腕で生活してるんですけど、「神経が抜ける」には1トン以上の負荷がかかるか、銃で撃ち抜かれない限り神経って抜けないらしいんですが、1トン以上の負荷がかかると人って死んじゃうらしくて…(笑)。 だから「神経が抜けた人の症例が少なくて治し方が現代の医療ではない」とお医者さんに言われてから頭の中でスーパーマリオのスターを取った時にBGMが鳴ってます(笑)。要は「事故以降の人生は全てラッキー/ボーナス」だと思って生きてます!
”Half cup full” 「コップに入った半分の水は半分しかないじゃなくてまだ半分あるんだ」
ー 大変でしたね!事故のとき、フジモリさんはちょうど将来について何をするかを決める年齢だったと思いますが、事故後、将来について不安に感じることはありましたか?
事故によって片腕が動かなくなって将来は不安しかなかったですし、バイクはもちろん、ギターやバスケ好きな事が出来なくなって漠然と目の前は真っ黒になりました。けどそんな切望的な状況でも一緒にいてくれる人や家族の愛に気づけましたし。事故から2年後くらいに人生において大事なテーマをある人から貰いました。”Half cup full” 「コップに入った半分の水は半分しかないじゃなくてまだ半分あるんだ」。「おれはお前のそういうマインドセットが好きだ」って言われて、無意識を言語化されて妙に自信がついたというか、自分を受け入れられるようになりました。それもあって「片腕だけど映像やってみよう!」って思いました。

ー 映像のお仕事をしたいと思うようになったきっかけは何でしたか?
20歳頃フラフラ渋谷のライブハウスに出入りしてた頃にDJの友達に「お前暇なんだったらVJやれよ!」って突拍子もない事を言われてから映像をちゃんと見るようになりました。それがきっかけですね!アホ面さげて突拍子もない事を言ってくれた友達に感謝です。
ー ビデオグラファーになりたいと思った時から、実際にビデオグラファーになるまでのプロセスについて教えていただけますか?
スチルのカメラマンだった兄に「映像やりたいんだよね」って話したら、知り合いのディレクターさんを紹介してもらって、そこに弟子入してアシスタントデビューって感じです。
楽しかった記憶や苦しかった記憶、愛おしい記憶、全て音楽とリンクするというか…
音楽はいつも隣にある存在です。
ー 弟子入りしてアシスタントとして経験されたことについて、ぜひもう少し詳しくお聞きしたいです。どのような経験でしたか?また、最初は大変だったことや困ったことはありましたか?
アシスタント時代は師匠の作るMVの撮影編集のお手伝いと某音楽番組のオフライン編集などをやらせていただいてました。忙しい時なんかは1週間事務所に寝泊まりして1日20時間くらいひたすら編集の下処理をしていた頃は刺激的でしたが体力的にハードでした(笑)。
ー フジモリさんにとって、音楽業界に入る前に、音楽はどんな存在でしたか?
「僕は音楽に救われて生きてきました!」なんて言うやつ胡散臭ぇって思ってるんですけど、でも確かに楽しかった記憶や苦しかった記憶、愛おしい記憶、全て音楽とリンクするというか…あの頃の匂いも音楽で思い出せたりするので、音楽はいつも隣にある存在です。
ー 音楽業界に入ってから、この業界に対する印象や考え方はどのように変わりましたか?
ただの音楽ファンだった頃と撮影で同じ時間を共有する様になった今とを比べるとより命を感じるというか、より熱量を肌で感じるようになりましたね。ライブの撮影中とか「この人このままやりきって死んじゃうんじゃないか」と思う事もあったりするので、こっちも命懸けで次はないかもと思いながら撮ってます。
ー ご自身の表現やアイデアと、アーティストのイメージ・ブランディングのバランスはどのように取っていらっしゃいますか?「自分のビジョン」と「依頼の期待」の間で悩むことはありますか?
基本的にはどんな映像を求めてるかヒアリングを元に構成していきつつ、その中で少しだけ「こんな事してみたんだけど、どうかな?」くらいの気持ちで自分なりの表現を入れたりしてみますが、採用されないこともあるので、そこはどうしてそういう判断に至ったのか極力客観的に見れるように意識してます。
ー ライブ映像、MV、バックステージ撮影など、撮影内容によって準備やプランニングは異なると思いますが、通常、依頼から納品までどのような流れで進めていらっしゃいますか?また、そのプロセスの中で特にこだわっている点はありますか?
例えば「ライブ映像を撮ってください」という依頼の場合、事前に内容などを相談してから当日の撮影に入るのですが、頭の中で組み立てていた映像や流れをその場で撮れたもの次第で常に脳内で編集、更新してます。
その中で特に大事にしている事が「映像から温度や匂い、想いが伝わるかどうか」に重きを置いてます。どれだけリアルに現実をどれだけ近くに感じれるかを大事にしてます。もちろん綺麗に作品っぽい映像も大好きだしそんな映像も作りたいんですけど、やっぱり想いや熱を感じた時に心が動くので、そういう映像が作りたいです。
ライブのダイジェスト映像だと、終演後2時間を目安に完パケしてます。フレッシュネスとリアルをホットなうちに、ライブに来たお客さんが帰り道に見れる映像をどれだけ作り込めるかに懸けてます。
ー 撮影の際に使用されている機材について教えていただけますか?こだわりの機材や設定、編集ソフトなどがあれば、ぜひ伺いたいです。
カメラはSONY a7siii、レンズはSIGMA 28-70mm f 2.8、SONY 24-105mm f4、SIGMA 16-28mm f 2.8
と軽さとコンパクトさ重視です!片手なんで!(笑)
そして最近osmo360というちっちゃい360度アクションカムを導入しました!設定は基本的に4K60p/120p logで撮ってます。編集ソフトはアドビのプレミアプロ、物によってはアフターエフェクトやフォトショップなども使います。

ー アーティストのサウンドや個性を映像で表現する際、どのようにアプローチされていますか?
一旦ぐちゃぐちゃに思ったまま全部詰め込んでやってみて、そこから引き算してます!ただ時間置くとさっきまでいいと思ってた所も変えたくなったりするので、正解がないところはいつまで経っても難しく面白いです。
ー フジモリさんはライブ映像やバックステージ、ツアー中の映像も担当されていて、撮影の際、映像は多ければ多いほど良いと思います。それでも、あえて“ここは撮らない”と判断される基準は何でしょうか?
カメラマンとしてここは抑えておきたいポイントはあったりするのですが、カメラマン以前に人としてその場の空気を崩さないようにしてます。その場の悪い意味で異物にならないように気をつけてます。

ー 経験を積まれた今でも、お仕事に対して不安に感じることはありますか?
毎回毎回ワクワクと同じくらい不安はあります!勝手にメンバーになったつもりで緊張感を持って撮影に挑んでます。
ー 映像に使われなかったとしても、忘れられない現場の瞬間はありますか?
高校2年生でロックバンドのコピーバンドを組んでいた頃に出会ったバンドマンがいて超純粋に日本人として生きてき僕にはものすごく新鮮な帰国子女。帰国子女というかアメリカ人と表現した方がしっくりくる彼は出会ってから16年間ずっと刺激を与え続けてくれました。そんな彼が率いるバンドを去年初めてお仕事で呼んでもらえたのですが、ライブ直前バックステージで「やっとだな!」と言ってハグしてくれた瞬間は忘れられません。映像初めてから12年、ずっと撮りたかった人、バンドなので、夏フェスでなければ目元の水滴は「暑いねぇ!」で誤魔化せなかったかもですね。

ー お忙しい時期や締め切りが厳しい状況でも、創造性を保つために工夫されていることはありますか?
編集していて集中が切れたらまた別の編集をするかとにかく居る場所や向き合う物事を変えます。部屋を変える、外に出る、映画を見るなど。そうして取り組んでる物事や作品を俯瞰して、そこからどんどんズームしてフォーカスしていく感覚はあります。
ー これまでのキャリアの中で最も苦労された時期はいつごろでしたか?それをどのように乗り越えられましたか?
苦労というかなんというか、”あの経験があったから今がある”と今は思えてはいるんですけど、コロナ禍くらいからYouTubeとかのバラエティぽい物とか所謂YouTuberみたいな動画の撮影編集や企画など色々な事をやっていた時期は苦しかったですね、性に合わなかった。やりたい事は別であるけど、求められてる事はまた違って生活するために雑に扱われても我慢していたけど、それでいいのか?ってプライドなんて大したもの持たなくていいけど今居るべきところはここであってるか?と当時は常に自問してました。
ー 現場でお仕事をする際、様々な予想外なハプニングやトラブルが起こってしまうこともあると思いますが、「これはやばい!!」と思った経験はありますか?
結構最近の話なんですが、ライブの撮影中にステージで楽器隊とぶつかってしまって人差し指がバックリえぐれて、8針縫うアクシデントがありました。メンバーに心配と迷惑かけて本当に申し訳ない気持ちとすごく冷静でありながらプチパニック状態でした。

ー いつか撮影してみたい、憧れのアーティストはいらっしゃいますか?
あげだしたらキリがないんですけど、高校生の時一番近くにあったバンドthe pilowsとa flood of circle。あとはアメリカのSleeping with sirensですかね。the pilowsは解散してしまったんですけど最後まで憧れでした。a flood of circleはカナダに1カ月くらい居た頃、毎日の様に聴いてました。知らない道を歩いていた時も、いきなり現地のちびっこに喧嘩売られた時も、バス乗り間違えて遠くまで行っちゃった時もずっと聴いてました(笑)
ー a flood of circleをまだ聴いたことがない人に、まずおすすめしたい1曲はありますか?
a flood of circleのおすすめの楽曲は
・泥水のメロディー
・Center Of The Earth
・コインランドリー・ブルース
・308
ですかね、厳選するのが非常に難しいですけど。

ー これから映像を始める人に向けて、何かアドバイスはありますか?
アドバイス…とにかく沢山いい映像を見て真似る事から始めたらいいかも!片腕でもできるからとりあえずやってみたらいいと思う!ですかね(笑)
ー 自分の目標や夢を実現するために、どんなプロセスとアプローチが必要だと思われますか?
物事を客観視して、周りの目や前例など気にせず…みたいな事を何度も答えては消してみたんですけど…結局は「やりたいならやりなよ」っていうのが僕なりの答えだと思います(笑)
ー 目標と夢と言えば、何か今の夢はございますか?
明日も目覚める事!ですかね。
ー 最後の質問ですが、現在こうしてクリエイティブにご活躍されている一番のモチベーションは何だと思われますか?
これは映像始めた時に師匠に聞かれたんです。「お前は映像を生業としてどうなりたいんだ」って、その答えが今でもモチベーションそのものですね。「僕は映像を通して”やばい”って言われたい」。

インタビュー・文:マズリナ・オルガ
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